この住宅着工戸数は国土交通省が集計・公表している統計データですが、国の基幹統計の1つでもあり、日本においての重要統計の1つに指定されています。
住宅着工戸数は、大きく分けると持ち家・貸家・分譲(戸建・マンション)のカテゴリーに分かれています。その中で賃貸用住宅、賃貸用マンションは貸家着工戸数に含まれます。
今回は、貸家着工戸数の推移から今後の賃貸住宅投資について考察してみます。
2012年からの貸家着工戸数の推移(月ベース)
(出典:国土交通省)
上図は、貸家着工戸数(全国)の月ベースでの推移です。
グラフを見ると、前年同月比でプラスが続いている期間とマイナスが続いている期間にはっきりと分かれているように見えます。
これは地主による土地活用などで賃貸用住宅の建築が関係しているためでしょう。
たとえば、2014年4月から消費税は5%から8%に引き上げられましたが、その直前の2013年は賃貸用住宅の建築駆け込み需要が目立ち前年同月比2桁を越える水準で推移しました。また、増税後も2015年から相続税改正されることが決まっていましたので、2014年もプラスが続きました。
2014年の後半から2015年の前半はしばらくの間、反動減により前年同期比マイナスが続きました。しかしその後は、2016年年初からの一層の低金利政策の導入に加え「サラリーマン大家ブーム」と呼ばれた賃貸住宅投資ブームにより、再び貸家着工戸数はプラスに転じました。
ですが、一部不祥事などがあり金融機関の融資スタンスが厳しくなると、一転マイナスが続きます。その流れは新型コロナウイルスの影響により、2021年前半まで続きました。そして21年後半からは前年同月比プラスが続き、現在(22年5月末)まで続いています。
移動年計でみると、傾向が鮮明に
貸家着工戸数は、例えば1月などは大きく落ち込みます。このような季節要因によりグラフの見え方が変わってしまう可能性がありますので、季節要因が大きい統計データでは、多少計算が複雑な「季節調整済み年換算値」や、移動年計(=その月を含め、前12カ月分の合計)で見ると、傾向がより分かりやすくなります。
ここからは、2012年1月以降の、移動年計の推移を見ていきましょう。
(出典:国土交通省)
上図は貸家着工戸数(移動年計)の推移です。 これを見ると、2017年をピークに落ち込んでいた貸家着工戸数が2021年春ごろを底として回復傾向にあることがわかります。そして22年3月末までの数字を見ると新型コロナウイルスの影響が出る前の水準にまで回復している様子がうかがえます。
金融機関の貸出総量
(出典:日本銀行)
上図は、日本銀行が国内銀行の貸し出し状況をまとめたデータの中から、貸出先が「個人による貸家業」であるものを抽出したものです。
これを見ると、新規貸出額は2016年をピークに減少しているのが分かります。2017年以降減少しているのは、この頃不動産投資における不正融資などがあったため、それまで金融機関で続いていた積極的な融資姿勢が一部で厳格化してきたことが要因と思われます。
このグラフと先の移動年計のグラフの形は似ているように見えます。貸家の着工戸数は建築主から都道府県知事に提出された建築工事の届出を基にカウントされますので、少し時期のズレはありますが、形はよく似ています。
このことから、金融機関の融資スタンスが貸家着工戸数に少なからず影響を与えている可能性が見えます。
グラフの右端では上昇局面になっています。つまり個人の貸家業に対する新規の貸出が若干上昇しているということですから、今後の貸家着工戸数が増えることが予想されます。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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