また、「存在する建物」は社会資本の一部とも言え、社会の要請に応えるものである必要があります。そのなかで、環境に配慮した建物は近年ますますその要求が高まっています。
今回のコラムでは、今後の賃貸住宅のメガトレンドについて考えてみましょう。
ここでのキーワードは2つです。
1)環境配慮
2)少人数世帯
キーワード1:環境配慮の賃貸住宅
すでにご承知のように、日本国においては、地球温暖化対応のため脱炭素社会の実現を目指しています。2020年10月26日に菅総理大臣(当時)は、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」と表明しました。
続けて、2021年4月22日の地球温暖化対策推進本部において菅総理大臣(当時)は、「集中豪雨、森林火災、大雪など、世界各地で異常気象が発生する中、脱炭素化は待ったなしの課題です。(中略)2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46パーセント削減することを目指します。」と宣言しました。
これにより、一般住宅・賃貸住宅を含むあらゆる建築物において、施工企業はカーボンニュートラル対応を目指すようになりました。
住宅においては、ZEH(net Zero Energy House)戸建住宅やZEH賃貸住宅の推進がハウスメーカーや建築・建設会社において積極的に行われ始めました。ZEH住宅とはザックリ言えば「エネルギー収支をゼロ以下にする住宅」という意味です。 例えば、家庭で使用するエネルギーを太陽光発電などで生み出し、蓄電池などを使い貯蓄することで、消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にするということです。
このような流れはもはや後戻りすることはなく、賃貸住宅においてZEH対応は、「あたりまえ」の時代になるでしょう。
※松建設のZEH・ZEBに対する取り組みについては以下をご参考ください。
https://www.takamatsu-const.co.jp/construct/approach/zeh_zeb/
キーワード2:小人数世帯の傾向は続く
2つ目のキーワードは、小世帯数向け賃貸住宅です。
2021年の1年間に産まれた子供は、約84万人で前年から約3万人(−3.4%)減り、6年連続のマイナスとなりました。合計特殊出生率は2005年に現在までの底である1.26となり、そこからはいくぶん回復しましたがこのところは1.3人台で推移しています。出生率の低下の背景には様々な要因があると言われていますが、その1つに婚姻数の減少、婚姻率の低下、未婚者数の増加(3つは表現が違うだけでいずれも同じ状況)があげられます。
1世帯当たりの子供の人数が少なくなれば、住まいの部屋数も少なくてよくなります。また、未婚者が増えるということは単身者が増えるということですから、多くの部屋数はいらないということになります。
このような少子化に伴う「求められる部屋数」の変化により、間取り変更のリフォームが増えているようです。
分譲マンションでは、築20年を超える物件には4LDKの間取りも見られましたが、所有者の子どもが巣立つタイミングで4LDK→3LDK(もしくは2LDK+納戸など)への間取り変更が行われ、これはライフスタイルの変化というだけでなく「売却時に有利になるから」と、将来の売却を見越しての工事だとも考えられます。
賃貸住宅においても、3LDK→2LDK(もしくは1LDK+納戸や書斎など)へのリフォーム工事が行われています。世帯のあり方の変化に伴う賃貸住宅需要の変化を捉えたものだと思われます。
これから求められる賃貸住宅の変化
一方で、国立社会保障・人口問題研究所の試算によれば、単独世帯の数は現在も増え続けており、今後もさらに増えると予想されています。
また、総世帯数(単独世帯だけでなく総世帯数)もまだしばらく増加することが予想されています。概ね1世帯に1つの住宅が必要となりますから、そう考えれば必要な住宅数は今後も増えるということになります。
しかし、少人数世帯が増えている現状を考えると今後の住宅は、ファミリー向けは親子3人が標準仕様となり、夫婦のみ世帯向け賃貸住宅と1人暮らし向け賃貸住宅のニーズがますます高まることは間違いないことでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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