路線価(より詳しく言えば相続税路線価)は相続税や贈与税の算定のもとになります。そのため、松建設マガジンの読者の方の中にも気になる方が多いでしょう。
2022年の路線価は、全国平均は前年比0・5%増と2年ぶりの上昇となりました。新型コロナウイルスの影響が徐々に減り、経済活発化の兆しや人流の増加が見られ始めている地域が増えました。そのため、22年度路線価観光地や繁華街などでプラスに転じたり、下げ幅が縮小したりなど、回復の兆しが鮮明となってきました。ただ、訪日客の急増などを背景に5年連続上昇となった20年(注:20年の路線価は、価格時点1月1日、公表7月1日です。そのため新型コロナウイルスの影響がない価格となっています。)のコロナ前の水準には戻っていません。
今回は、公開されたばかりの22年路線価を解説します。
路線価とは
路線価は国税庁が発表する不動産が関わる税(例えば相続税や贈与税や固定資産税)の課税基準を算出する際の基準となる土地価格です。22年中にお亡くなりになった方の相続に伴う相続税、22年中に行われた贈与に伴う贈与税などは、この路線価を使うことになります。
路線価は、特定条件や奥行距離等による補正、その他、その計算方式はかなり複雑です。国税庁のホームページで検索すれば、ご自身で路線価を計算することもできます。
しかし、課税額は個人の状況によりかなり異なりますので、より詳細な税額については専門家に相談するといいでしょう。
22年度路線価の全国俯瞰
22年の路線価は全国平均でプラス0.5%上昇し、全国20都道府県で平均値が上昇しました。昨年は前年比マイナスとなった東京・大阪・愛知の3大都市も、いずれもプラスに転じました。
また、都心まで60〜90分程度の郊外の住宅地や、かつては避暑地と呼ばれたようなリゾート地での上昇が目立ちました。リモートワークが広く一般化し、働き方と住まい方に多様性が広がっていることが背景にあると考えられます。
都道府県別に見れば、前年対比上昇率の上位は、1位北海道、2位福岡、3位宮城、4位沖縄、5位愛知となっています。これらの道県では主要都市(あるいは主要駅)での駅前再開発が進み、人口・世帯数とも大きく増加しています。
昨年は全国ではマイナス0.5%でしたが、今年は+0.5%と1年でプラス圏を回復しました。昨年マイナスからプラスに転じた都府県は13あり、合計で20都道府県がプラスとなりました。
東京都の路線価の状況
東京都の路線価は平均で前年比1.1%上昇しました。昨年は8年ぶりの下落でしたが、1年で再び上昇基調に戻りました。
今年度の東京都における路線価の上昇率を丁寧にみると、大きな傾向に気が付きます。それは、上昇率上位に住宅地に隣接する駅前周辺地が目立ったことです。逆にオフィスエリアや繁華街では回復の遅れが目立ち、下落率の上位には、上野や池袋といった都心繁華街、商業地が並んでいます。また、八重洲・丸の内といったオフィスエリアの路線価も回復はまだ先のようです。
今年の東京都の路線価の傾向を見ると、
@インバウンド観光需要、国内観光需要が戻りつつあり、昨年分は大きく下落したが、多少回復の兆しが見え始めている。
Aリモートワークが定着し、地域に根差した商店街やショッピングセンターなどは好調が続き、都市部の中にあって地元感のある地域が伸びている。
Bオフィス需要は厳しい状況が続いており、広く一般化したリモートワークはもとには戻らないと思われる。この状況に今後の都心での新規供給が増えることを勘案すれば、オフィスエリアの苦戦は続く。
大阪府の状況
大阪府の路線価は平均で前年比0.1%上昇しました。昨年はマイナス0.9%でしたので、かなり回復したことになります。
傾向としては、上記東京都の路線価の傾向@〜Bと同様です。
ただインバウンド観光需要が旺盛だった地域では、まだ外国人観光客はわずかで苦戦が続いています。また、大阪ミナミの繁華街では新型コロナウイルスの影響が出る前(路線価では20年分)まで勢いよく地価上昇が続いていた反動もあって、昨年に続き大きく価格が下落し、心斎橋2丁目の地点では全国最大の下落率(各税務署管内の最高路線価地点の中で)となりました。
今年後半から、徐々にインバウンド観光客は増えてくるものと思われますので、来年以降の路線価の回復を期待したいところです。
23年への見通し
大都市においては、居住エリア(住宅地)の上昇は鮮明で、一方オフィスエリアの回復は未だ道半ばという状況です。とくに、前述の路線価の傾向Bで書いたように、東京都心では23〜25年は新規ビルの竣工が重なり供給が一気に増えます。オフィス需要の急回復がない限り賃料下落は避けられず、そうすればオフィスエリアの地価は下落可能性が高まります。
また、同じく路線価の傾向Aで書いたように「都市のど真ん中」というエリアの地価は依然高い状況は続くと思われます。加えてリモートワークが普遍的に続くとするならば、とくに賃貸住宅需要においては「都市の中の地元感のある地域」の住まい(都市の中の下町)の人気はさらに高くなり、それに伴い、こうした地域の地価が上昇する可能性は高いでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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