ご子息などに継がせる場合でも、企業が保有する株式や不動産などの価値算定を行い適切に承継しなければ、膨大な贈与税がかかることにもなりかねません。
創業者、経営者にとって大きな問題である事業承継について、不動産の観点から考えます。
ファミリー企業の後継者問題
日本では圧倒的に個人経営や家族経営が多く、それは今も昔も変わりません。昨今M&Aビジネスが旺盛ですが、その背景には1970年代・80年代に創業した多くの中小ファミリー企業で子や孫が後継社長になっている一方、後継者がいない企業の存在があります。
産業のライフサイクルと“事業承継しない”問題
どんな産業にもライフサイクルというものがあります。1970年代・80年代頃は盛隆を極めたビジネスでも、それから50年程度経った2022年の現在ではすでに古いビジネス「衰退産業」になっていたり、「産業的に今後伸びは期待できない」という状況だったりします。
産業のライフサイクル
上図は、今述べた産業のライフサイクルについて図式化したものです。
どんなビジネスでもこうした潮流をたどります。勃興から30年も経つと、ビジネスとして成り立っているのは一部の大手企業くらいで、資本主義社会の宿命とも言えます。
高度成長期を経て70・80年代に多くの産業が興り、多くの企業が設立されましたが、それらがまさに衰退期を迎えているわけです。
このような状況のなかで、ご子息(一族)等に事業承継しない。つまり廃業する企業も増えています。
政策金融公庫によるアンケート調査(2019年)では「事業承継しない理由」として、以下のような答えが上位に並びました。
・後継者または後継者候補がいない
・自分の代でやめようと考えていた
・事業の先行きに不安がある
ファミリー企業と不動産
中小企業やファミリー企業では、事業に使っているビルや工場・倉庫などの不動産を創業者個人が所有している例も多く見られます。事業資金調達(借入)の際に経営者が所有する不動産を担保にする例も多く、こうした企業のバランスシート(B/S)はややこしくなってしまっている場合もあります。事業承継するにしても、M&Aをするにしても、いろいろと大変なようです。
事業承継しない企業では、こうした不動産をどうするか?という問題に直面します。M&Aで企業売却する際に一括して売却する例もあれば、事業権だけを売却し不動産は所有する例もあります。
都市部で廃業する場合は事業の跡地(事業用地)を再利用して賃貸住宅やテナントビルを建築し、賃料収入ビジネスに切り替える方も多いので、賃貸経営への事業転換を検討してもいいでしょう。
事業承継と不動産
中小企業でも長年安定した経営を行っているとビルや工場・倉庫など、不動産を所有していることもあるでしょう。その中には事業で使っている事業用地もあれば、あまり有効活用されていない事業用地もあると思います。
特に、有効活用していない土地が更地や駐車場などの場合は固定資産税がかかる上に、承継の際に自社株評価が高くなり、税の面で不利になります。こうした未利用・低利用の土地を所有し、今後事業承継を考えている企業の場合は「売却」という方法もあり、売却で利益が出れば自社株評価が上がります。
そこで、収益物件を建築し負債を抱えた上で賃料収入を得る方法を検討してみるのも一案です。この方法を上手く活用すれば自社株評価が下がった上で、かつ収益物件を承継することができます。
いずれにしても、事業承継をお考えの企業オーナー様は早めに不動産の有効活用について検討してみるといいでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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