建物・土地活用ガイド

2022/11/22

海外生産拠点の国内回帰とUターン用地探し

円安の進行に伴い、国内製造業は海外からの国内回帰が進んでいます。
しかし、製造業の生産拠点の移転には新たな投資と拠点(場所)の確保が必要ですが、条件に合うUターン用地を見つけることに苦労しているようです。

海外移転の背景

バブル崩壊後の1990年代半ば〜後半にかけデフレ圧力が強まる中で、日本の製造業は安い労働力を求め海外(とくにアジア圏)へ生産拠点を移転する企業が増えました。アジアの安い人件費が日本国内の物価維持(あるいは下落)要因とも言えます。また、人口が減少し市場拡大が期待できない日本には留まらず海外に市場を拡大する企業が増えたことも、海外生産拠点が増えた要因でした。

インフレと労働人件費の上昇と円安

しかし、新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い各国が財政出動したこと。そして需要の急拡大(ペントアップ需要を含む)により、エネルギー価格の上昇も相まって世界各国でインフレが起こっています。対策として各国は段階的にかつ通常以上のピッチで政策金利を上昇させました。
日本も物価が上昇していますが世界的に見ればその上昇率は低く、物価上昇に伴う賃金の上昇も今のところ見られません。そのため金利引き上げは行われず、各国(特にアメリカ)との金利差は大きくなっています。こうしたことが原因となりドルに対して円安が続いています。
また、アメリカをはじめとした欧米各国やアジア圏では顕著なインフレとともに賃金(労働人件費)が上昇しています。

海外生産拠点の日本回帰

安い労働人件費を求めて海外に生産拠点を移した企業の中には、海外生産拠点の一部を国内に戻す動きが見られます。
その理由を整理すると以下のような理由があげられます。

1) 海外生産拠点地域の人件費の高騰(想定的に日本の人件費の抑制)
2) エネルギー価格高騰や人件費増に伴う、物流コストの増大
3) 現地物価上昇に伴う、原材料費の高騰


という経済的・経営的な要因とともに

4) 米中対立や台湾情勢、ウクライナ情勢といった地政学的なリスク

すでに日本に戻した、あるいはこれから検討する という国内回帰の動きが進んでいます。

Uターン企業の悩み

このように帰還(Uターン)を考えている企業の中には、「戻りたくても戻る場所(条件に合う工場用地・事業用地)がない」と悩んでいる企業も多く、松建設の担当者にも「事業用地が見つからない」という相談が寄せられているそうです。

1990年後半から2000年代前半は、過去を振り返っても分譲マンションが首都圏で最も多く供給された時代です。都心回帰に乗る需要の増大とともに、マンション適地が多くあったからです。この時代にマンション適地が増えた理由の1つに「製造業の海外移転」がありました。
それから20~25年。「戻ろうか」と思っても、広さ・立地など、事業に見合う土地が無いというわけです。

Uターン企業の現状

公表されている大手上場企業が中心ですが、生産拠点の一部を海外から日本に戻した企業の例を見ると、ほとんどが広大な土地と国内でも人件費が高くないエリア、つまり田舎町と言われる場所に新工場などを建てる例が多いようです。
こうした選択が増えるとすれば、雇用が生まれ、地方の活性化が進み、周辺地域での住宅需要が高まるなど、良い流れが生まれそうです。

中小企業においてはそれほど広大な土地は必要ないことが多いと思われますので、地域の選択肢は広がります。しかし、1990年代後半〜2000年代前半に比べて首都圏や関西圏、中部圏などでは地価が上昇しているため、なかなか折り合いが付かず難航する例もあるようです。

最後に

このように、新たな生産拠点を探すのは困難なことです。企業の不動産活用、本社ビルや工場・倉庫など、事業用建築の相談を数多く受けている松建設のような経験豊富な会社に相談したり、すぐの話でなくとも普段から良好な関係を築いておき、「いざ」という時に備えておくとよいでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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