建物・土地活用ガイド

2017/10/02

建物の価値を維持する秘訣である修繕計画

日本の建物は、ヨーロッパやアメリカなどに比べて耐久年数が短いと言われています。いわゆるスクラップ&ビルドが当たり前で、古くなったら取り壊して建て直すといった考えが一昔前まで常識となっていました。しかし、近年では建物の資産価値をできるだけ維持するために、脱スクラップ&ビルドの動きが活発化しています。そのため、建物において“長期修繕計画”を立てることが重要視されています。

建物の長寿化のために重要なこととは

建物は例外なく経年劣化していくため、長寿化を望むのであれば先を見据えた建築が不可欠です。たとえば、耐久性に優れた堅牢な鉄筋コンクリート(RC)構造を採用したとしても、時間の経過とともに進行するコンクリートの中性化によってひび割れや剥離、外壁塗装の剥がれなどが起き、給排水管、ガス管といった設備の劣化も避けることができません。

そのため、建築の段階で建物全体の強度はもちろん、建物に使用する素材選び、コンクリートの中性化を抑える工夫、設備のメンテナンスや破損時・老朽化時に柔軟な対応を取れる設計などを考える必要があります。また、建築後もその建物をできるだけ長く維持していくための対策を講じなければなりません。2006年に国土交通省の発表した十和田合同庁舎をモデルとした試算では、40年で取り壊しをした場合に比べ、60〜88年間建物を使用した場合のライフサイクルコストが低減されることがわかりました。

つまり、長寿命化改修はコスト削減において有効な手法であり、継続的に建物を使用する場合は長期修繕計画を作成する必要があるとしています。日本建築における悪しき習慣であるスクラップ&ビルドから脱却し、建物の資産価値を維持するためには、まず設計時から建物をいい状態で保てるよう対策を施し、先を見据えた修繕計画を立てることが秘訣だと言えるでしょう。

長期修繕計画を立てることの意義

建物の資産価値を適正に維持するためには、計画的な修繕が不可欠です。長い目で建物の維持を考えた”長期修繕計画”を立てることは建物の延命や資産価値の維持・向上のほかに管理組合運営を円滑に行うことや、ひいては建物のライフサイクルコストの低減につながります。

ライフサイクルコストは建物を利用、運営しているかぎり発生します。完成後に何十年と累積することになる保有費・保全費・修繕更新費・運用費・施設管理費・除却費などのランニングコストの方が建築費の数倍にもなる可能性があることを念頭に置いておきましょう。そして、長期修繕計画を立て、適正な修繕更新を行うことで、費用対効果を最大にするためのマネジメントを実践することが重要です。

この長期修繕計画について、国土交通省は”長期修繕計画様式” ”長期修繕計画ガイドライン及びコメント”を策定し、様式、推定修繕工事項目、均等積立方式による修繕積立金の額などを示していますので、事前にチェックしておきましょう。

ライフサイクルマネジメントで資産価値維持を

建物の建築には非常に多くの資金が必要なことは言うまでもありません。マンションやビルともなれば何十億という建設費がかかることもあります。しかし、建物ライフサイクルコストを考えたとき、こうした建設費は全体の一部にすぎません。

建物のライフサイクルコストは、およそ80%が維持管理にかかるランニングコストだと言われています。膨大な金額となる維持費を削減するためには、長期修繕計画を立てるなど建物の長寿命化を図り、計画に沿った修繕を行うなど、建物のライフサイクル全体を見据えた”ライフサイクルマネジメント”を行うことが重要です。

建物は設計する段階からどんな対策を行ったとしても、規模にかかわらず必ず経年劣化していきます。どんなに最新の技術で建築されたとしても、その運命に抗うことはできません。そのため、建物の資産価値を維持するためにも、計画・設計・施工・維持・解体・廃棄の全体のサイクル、つまりライフサイクルマネジメントの考え方を大切にしましょう。そして、そのサイクルの一部として修繕計画を立て、きちんと実行することが重要になります。

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