一方で大都市部では再開発計画が続々と進められ、耐震補強よりも周辺との一体開発※を選択する不動産オーナーも増えています。
※隣接、または近接する複数の土地における開発行為等が、総合的に判断して一体的な開発行為と認められる場合などのこと。
大きな地震が発生したら、賃貸住宅を所有しているオーナーは、自身が所有する建物に大きな損害が出る心配に加えて、入居者の方が無事かという2つの心配事が起こります。もし仮に、耐震補強などを行っていない旧耐震物件が倒壊したら、どうなるのか?
今回は、旧耐震物件とオーナーの責任について考えます。
旧耐震基準とは
建築基準法による耐震基準は、1981年5月末までに建築確認が降りた建物とそれ以後の建物で異なっています。ざっくり言えば、旧耐震基準では「震度5強程度の地震に耐えうる」建物、1981年6月以降に適用された新耐震基準では「震度5強の地震では軽微な損傷、6強や7程度の大きな地震にも倒壊しない」建物が求められるようになりました。この新耐震基準は現在でも適用されています。
1981年前後の建物が新耐震基準か旧耐震基準かを見定めるためには、竣工日(完成)ではなく、確認申請の日を調べるといいでしょう。
旧耐震物件の中には、とくにRC造の建物の場合は「震度5強程度の地震に耐えうる」以上の耐震性がある建物も多いと思います。しかし、直下型地震の阪神淡路大震災や震度7の地震が2度連続した熊本地震では、建物倒壊や損傷の中心は旧耐震基準の建物でした。
ここからは旧耐震物件の中でも賃貸住宅を中心に進めます。
旧耐震賃貸住宅はどれくらいあるのか?
旧耐震基準で建てられた賃貸住宅はどれくらいあるのでしょうか。
図1は、貸家の数を建築時期別に並べたものです。
これを見ると、調査時点で全国に存在している貸家のうち全体の17.8%は1980年以前に建てられており、その数は309万5900戸となっています。旧耐震基準の貸家が相当数あるということが分かります。
※新耐震基準の施行は1981年6月以降ですので、1981年5月まで旧耐震基準の貸家が建築されていますが、年単位の集計となっているため1980年と81年で旧耐震物件と新耐震物件を分けています。(以下同様)
次に、貸家総数に占める旧耐震物件の割合を都道府県別に見てみましょう。
全国の貸家総数に占める旧耐震物件の割合は17.8%で、これよりも割合が多い都道府県は西日本の府県しかないことが分かります。都市部の大阪府24.7%、京都府22.2%、兵庫県20.8%と、関西の主要府県もかなりの割合となっています。
ちなみに、愛知県は17.6%、東京都は17.3%です。
さらに、関西主要3都市に絞ってみれば、大阪市は20.9%、京都市も20.9%、神戸市は22.4%と、どこも高い割合となっています。
このように西日本で旧耐震基準の古い貸家が多く残っている背景には、西日本に古くから「貸家」「借家」の文化があり、賃貸住宅に住む方が多かったことにより、古くから多くの賃貸住宅が建てられてきたことがあげられます。逆に古くから持ち家志向が強い日本海側地域は、旧耐震基準の貸家の割合は低くなっています。
賃貸住宅の工作物責任
賃貸住宅の2割弱が旧耐震基準物件であり、震度6を超える地震があった場合倒壊の可能性がないと言いきれません。賃貸住宅は入居者に貸す建物であり、建物所有者は民法の規定で「建物を保存する」責任があります。これに対して瑕疵があり入居者が障害などを負った場合は「工作物責任」を求められることがありますので、旧耐震の賃貸住宅所有者の方にとっては深刻な問題です。
工作物責任について
賃貸住宅が大きな被害を受け入居者に万が一の事が起こった場合、例えば「旧耐震物件で耐震補強工事などを施工していないこと」が原因とされ、これが瑕疵と認定されれば民法の規定により責任を取らなければなりません。民法717条の1項に定められている建物所有者の工作物責任」です。
この条項では、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」とされています。
大きな地震が起こった際
@ 建物が倒壊するなどして入居者が傷害等を負った
A 建物の一部が落下して通行人などにあたった
といった、建物の維持管理(民法上では保存と表記)の瑕疵で被害者が出た場合に、原因が建物存続のための責務を果たしていなかった事だとされれば、所有者は工作物責任を追うことになります。
旧耐震の賃貸住宅を所有するオーナーの方は、必ず知っておきたい法律です。
旧耐震賃貸住宅の対応
旧耐震の賃貸住宅を所有されている方には、まず耐震診断をすることをお勧めします。
相続して建物の状態がわからないという場合や、新耐震の賃貸住宅でも管理状況によっては老朽化や劣化の心配があります。ひび割れなどの不安があったり、築年数が経っている物件は、法定耐用年数を目安に一度耐震診断や建物診断をしておくと安心です。
建物には国で定められている法定耐用年数があります。法定耐用年数は減価償却費の計算に必要な情報ですが、建物の価値がなくなるであろう期間=建物が問題無く利用できる期間の目安とも言い換えられます。
もちろん法定耐用年数は寿命ではありませんので、年数を超えても建物は利用できます。ですが、建物の老朽化に対してより注意が必要になってくるでしょう。
国で定められている法定耐用年数は、以下のようになります。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
鉄筋コンクリート造(RC) 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造 |
47年 |
重量鉄骨造(厚さ6mm以上) | 厚さ4mm〜 34年 |
軽量鉄骨造(厚さ6mm未満) | 厚さ3〜4mm 27年 厚さ〜3mm 19年 |
木造 | 22年 |
高層ビルや高層マンション等に用いられる鉄筋コンクリート造は47年。ハウスメーカーなどが多く採用している鉄骨造は19〜34年です。
耐震性、耐久性を考慮した建物を建て、適切にメンテナンスを行っていけば、耐用年数よりもずっと長く利用することが可能です。
松建設の標準は建築基準法を上回る耐震設計!
松建設のRC建物は建築基準法で定める地震力のさらに1.15倍で設計されている地震に強い建物です。
RC建物で図面をお持ちの場合には、無料で簡易耐震診断も行っていますので、気軽にお問合せ下さい!※有料の耐震診断も受付可能です。
ご相談フォーム : https://www.takamatsu-const.co.jp/contact/
お電話でのご相談 : 0120-53-8101(フリーダイヤル)
建物診断について : https://www.takamatsu-const.co.jp/consultant/quakeproofcheck/
建物診断は松テクノサービスへ気軽にお問合せください。
ご相談フォーム : https://www.takamatsutechno.jp/webmail_form.html
お電話でのご相談 : 0120-976-527(フリーダイヤル)
建物診断について : https://www.takamatsutechno.jp/inspection.html
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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