建物・土地活用ガイド

2023/06/21

最新キャップレート分析 96%が新規投資は積極的に行うと回答

不動産投資における「投資家の意欲」を測る有効な指標の1つがキャップレート(期待利回り)です。キャップレートが低下傾向にあれば「不動産投資意欲が旺盛」と判断され、逆に上昇傾向にあれば「意欲が低減している」と判断します。
また、キャップレートは利回りの妥当性を判断する基準にもなり、多くの不動産投資家が気にしている数字でもあります。賃貸住宅購入、賃貸住宅建築、賃貸用オフィス購入や建築など賃貸を前提とした不動産投資で重要な意味を持つ数字と言えるでしょう。

キャップレートはいくつかの機関から公表されていますが、今回の原稿では(財)日本不動産研究所が2023年5月30日に発表した第48回「不動産投資家調査」(調査時点:23年4月:アセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などへのアンケート調査)のデータをもとにキャップレートの動向を解説します。

キャップレートとは

キャップレート(Capitalization Rate)とは不動産投資における利回りの指標の一つで、期待利回り、還元利回りのことを指します。このキャップレートは、不動産投資家や企業がどれくらいの利回りを期待しているかを集計して算出したもので、利回りの基準として用いることが多い指標です。

還元利回りでの収益物件価格の算定の際には年間収益÷利回り=不動産価格で計算されますので、キャップレートがここでの利回りの基準となるならば、賃料水準が一定とすれば「キャップレートの動向は、不動産価格の動向を反映したもの」とも言えます。
キャップレートはエリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって変わってきます。

最新のキャップレート動向

最新のキャップレート動向では、不動産種別、地域ごとに違いが見られました。
住宅では東京(城南エリア)が本調査開始以来最も低い値を更新(前回も最低値を更新)し、多くの地方都市でもキャップレートは前回(22年10月調査)より低下しました。(ここまでの解説の通り、投資意欲旺盛、価格上昇)
オフィスビルでは多くのエリアで横ばいに。低下地点は東京赤坂、京都、広島のみとなり、国内で最もキャップレートの低い東京丸の内・大手町エリアでは、久しぶりに横ばいとなりました。それでも3.2%で2000年以降最低値となっています。
宿泊特化ホテル(いわゆるビジネスホテル)では国内移動が再び活発化し、インバウンド観光需要の回復を受けて、札幌・名古屋・大阪・那覇で前回より低下しました。

賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート

ここからは、賃貸住宅にフォーカスして解説しましょう。
ワンルームタイプ(注:ワンルームタイプは25〜30u、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定)の賃貸住宅(一棟)のキャップレートは、調査を行った全国主要都市(10都市)のうち、東京城南・名古屋・大阪で0.1ポイント低下しました。それ以外の7都市では横ばいとなっています。前回調査時は8都市が最大0.3ポイント低下しましたので、全国的に見ればやや減速といったところでしょう。

上の図をみれば分かりますが、東京城南(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)では3.8%で過去最低を更新、他の都市においても過去最低水準にあります。
図のように、2012年以降多くの都市では、キャップレートはほぼ右肩下がりで推移しています。このことからも、賃貸住宅への投資は一時的なブームという状況ではないと言えるでしょう。
また、東京城南地域の想定物件の実際の取引における利回りは前回3.6%でしたが、今回はこれを下回る数字になっているようです。極めて低いキャップレートとなっており、賃貸住宅投資熱の高さがうかがえます。

ファミリータイプの状況

ファミリータイプ(注:想定は広さ50u〜80u、それ以外はワンルームタイプと同じ)でも同様に、全国主要都市のうち6都市(東京城南・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡)で0.1〜0.2ポイント低下しました。
東京・城南地域では前回4.0%から3.9%へ下落。ワンルームと同様に調査開始以来最低となり、想定物件の実際の取引における利回りは3.7%を切るようで、ファミリータイプとして極めて低い数字となっています。ファミリータイプに比べて比較的賃貸住宅需要が旺盛で手堅いワンルームタイプの方が、キャップレートは低い傾向にありました。
しかし、このところの動向を見ると、ファミリータイプのキャップレートの方が低下している都市が多く、多くの地域でワンルームもファミリータイプもほぼ同じとなっています。

まだまだ投資意欲は高い

「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答が96%もあり前回よりも1ポイントの上昇。逆に「新規投資を控える」の回答は3%に留まり、前回調査から2ポイント低下しました。
当面は金融緩和政策が続く見通しとなり、不動産市況はまだまだ活況が続きそうです。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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