近いうちにお客様が建築系企業を「ブランド」で選ぶ時代が来るでしょう。
今回は、建築請負会社の「ブランド」について考えてみます。
ブランドとは、信頼が貯蔵された蔵
日常の生活において、我々は様々な物を購入します。その際に選択の基準となるのは、価格を除けば製品あるいはサービスのブランドに起因する信頼性でしょう。ブランドは信頼性が貯蔵された蔵とも言え、選択肢の多様化が進むに従い、購買経験のあるものは「ブランドで選ぶ」という購買様式が広まっています。
「ブランド品」と言うと、高級なアパレル、革製品、宝飾品などが思い浮かびます。これらはハイブランドの高額品でも、熱狂的なファン層の信者客が買い求めます。
高級なイメージがある「ブランド品」ですが、日常的に購入する物でも「ブランド品」はあります。例えば、大手4社で圧倒的なシェアを持つビール業界においても、アサヒ・キリン・サッポロ・サントリーが製造販売するビールには、企業名もしくは商品名というブランドで購入を選択される方も多いでしょう。「この企業のものだと安心」「この商品名だったら安心」という信頼が、そこには存在しています。
ブランドは資産である
こうして考えれば、企業にとって「ブランド」は資産とも言えます。
アメリカの経営学者David Aakerによれば、「ブランド」という資産の主な構成要素は以下です。
@ ブランド認知 =どれだけブランドが知られているか
A 知覚品質 =実際の品質ではなく、客観的な品質イメージ
B ブランドロイヤルティ =先に述べた熱狂的・信者的感覚
C ブランド連想 =ブランド名を聞いたときに連想するもの
D その他のブランド資産 =特許など利益を生む無形のもの
ブランドは資産ですから、お金を生み出します。
例えば、家電製品や住設製品などで同じ製品を別々のブランドで売り出している例があります。OEM※と言い、ブランド認知力の高い社名・製品名をつけると、より高額で売り、より販売数が増える例が多く見られます。
※OEM 他社ブランドの製品を生産すること、または他社に生産を委託すること。
マンションブランドはブランド化しているか
不動産業界では、マンション開発でブランド化した例が見られます。
大手マンションデベロッパーが立地のレベル・建物建築のレベル・室内仕様のレベルなどの統一を図り、それまで均一でなかった分譲マンションにブランド志向を取り入れました。ブランドイメージを向上させるマンションブランドのテレビCMも多く見られます。
マンション開発でブランド化が進む理由は、マンションデベロッパーが開発会社かつ販売業者でもあるので製造業に近く、ヴィトンやメルセデスベンツと同じような考え方でブランド構築できるからでしょう。
ブランド戦略では「自社製品・自社商品の特徴」を明確にし、インパクトがある形その商品のイメージを消費者に伝え、認知させていきます。
そのためには、競合他社と比べ「自社の差別化ポイント」がはっきりしていることが求められますが、現状のマンションブランドははっきりとした差別化はありません。「マンションをブランド買い」する方は、まだ少数でしょう。
建築請負企業におけるブランド戦略とは
建築物は、当然ながら建築主のニーズがバラバラなので同じ建物はありません。たとえば、ヴィトンの鞄のようにメーカーが作った物をそのまま購入できるような商品は、前述の分譲マンションや分譲住宅くらいです。
また、ハウスメーカーが建てる住宅の中には工場で製造したパネルやユニットを建築現場で組み立てるタイプの物件が多く見られます。(そのため、メーカーと名前が付いているわけです) パネル工法、ユニット工法、プレハブ住宅などと呼ばれますが、これらの建物の場合は工期も短く、他社と比較的容易に差別化できます。
しかし、ハウスメーカーではない建築系企業は個別性の強い請負業ですので、こうした「商品ブランド」の構築は難しくなります。
そこで業務を分解してみましょう。建築請負企業の業務は、以下の3つのフェーズに分かれます。
@ お客様のニーズ(要望)を正確に聞き
A その要望をかなえるベストなソリューションを提供し
B 建物という形に仕上げる
Bが建築工事にあたりますが、オリジナルで設計する建物は決まった形のパネルやユニットの製造をしていませんので、ここでの差別化は難しいです。
しかし、@やAでは担当者の対応次第で、ブランドイメージを構築することができます。
一例を挙げると、
@ お客様のニーズをトコトン聞く
打ち合わせで聞き取った内容や、ディスカッションしたことをスピーディにお客様にフィードバックするなど、「本気の顧客ニーズの汲み取り」を行動で示す。
A ベストなソリューションを提供する
お客様にとってベストな提案になるまで何度もミーティングを行い、解決策を提示する。要望を超えたレベルのプラン提案をする。
などです。
松建設では自社の存在意義として「お客様の事業を成功に導き、お客様に幸せをもたらす」という目標を掲げていますが、「お客様の立場に立って、お客様の役に立つ」というスタンスを示すだけでは、ブランドのイメージを定着させることは難しいでしょう。
「どんなアクションを起こすか」、そしてそれを消費者や世間に「どれだけ定着させるか」がポイントです。
もうしばらくすれば、建築会社をブランドで選ぶ時代が来るでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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