一方、関係各所にアンケート調査を行い分析するDI調査という方法もあります。データ分析と異なり比較的感覚的になりますが、不動産だけでなく、様々な業界で取り入れられている「景況感を推し量る」調査です。
不動産におけるDI調査はいくつかの機関から公表されていますが、今回は公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)が行っている「不動産価格と不動産取引に関する調査報告〜不動産市況DI調査〜」(最新調査:2023年4月分)をもとに、不動産の景況感を分析してみたいと思います。
関係者の肌感が反映される不動産市況DI調査
DI(Diffusion Index)は、景気の拡大や市況感を見る際に、分かりやすく指数化したものとして様々な調査で用いられる手法です。内閣府の景気ウォッチャー調査や日銀短観などのDIはメディアも大きく報じるのでご存知の方も多いと思います。この調査はアンケートを行い集計するというシンプルな調査方法ですが、最前線の現場で働く関係者にダイレクトに聞く手法ですので実態が見えやすく、現状が把握しやすいと思います。
全宅連による不動産市況DI調査は、アンケートを行いその結果にウエイトをかけて算出しています。
アンケートは
@ 大きく上昇(あるいは改善などポジティブなワード)
A やや上昇
B 横ばい
C やや下落(あるいは減少などネガティブなワード)
D 大きく下落
の5段階の回答から選択する方式となっています。
ここでのDI指数は
(@×2+A)−(D×2+C)
※横ばい回答=Bは、0として計算
の式で算出しています。
ここからは、調査内容を解説・分析してみましょう。
土地価格の動向
はじめに、土地価格(=地価)について見てみましょう。
23年の地価公示では、大都市だけでなく地方主要都市やその周辺地域の地価上昇が顕著となりました。本調査においても同様の傾向が見られます。
「3か月前=年初と比べての土地価格動向」では、中国・四国地方を除いてDI指数はプラスとなりました。全国平均のDI指数は+9.1ポイントで、前回調査に比べ+3.5ポイント上昇。21年4月分調査以降9回連続のプラスとなりました。
エリア別に見ると、最もDI指数が高いのが九州・沖縄地区で+14.3ポイントです。引き続き好調な福岡エリア、観光客が戻って復調が鮮明な沖縄で大きくプラスになっているようです。
次点が北海道・東北・甲信越地区の+13.8ポイントで、これは絶好調の北海道エリアが牽引しているものと思われます。
次に近畿地区の+13.5ポイントで、特に万博やIR開発が控えている大阪、そして観光客が戻った京都の好調さが伺えます。
これら3つのエリアでは「やや上昇している」が30ポイントを超えており、エリア全体が伸びている状況が伺えます。
一方関東地域では、中国・四国地方に続いて2番目に「やや下落している」のポイントが高く、ここから3カ月先の見通しDIでも−1.7と、全国で唯一マイナスとなりました。
現状ではマイナスとなっていませんが、地価の高止まりが続く首都圏では「そろそろ感」が広がっているものと推測されます。
土地価格から見る不動産景況感は、三大都市や地方主要都市では好調で「全国的によい」というイメージですが、中国・四国地方など一部そうではないエリアもあるようです。
また、この先の見通しのDIにおいては、九州・沖縄がダントツに高く+14.3ポイント、続いて近畿地方の+4.1ポイント、北海道・東北・甲信越地方の+3.4ポイントとなっており、それ以外では大きなプラスは出ていません。金融緩和政策が続くのかなど、先行きの不透明さがありますので、それを色濃く反映した結果だと思われます。
札幌・仙台・関西全域・福岡・沖縄などは、不安を吹き飛ばすほどの勢いがあると言っていいでしょう。
賃貸住宅の賃料動向
次に、賃貸住宅の賃料動向についてです。
全国平均では、DIは±ゼロでした。最も好調なのは関東地域で、「やや上昇している」が23.1ポイント、DIは+13.5ポイントでした。近畿地方は+9.7ポイント、九州・沖縄地方は+9.4ポイントでした。
土地価格の状況とはやや異なる結果です。そんな中で近畿地方や九州・沖縄地方は土地価格、賃料とも好調となっています。
DIは景況感指数とも訳され、現場で活動する方々の「現状の感覚」が伝わる調査で、冒頭に述べたデータ分析から導かれる動向の先行指標になると言われています。ぜひ参考にしてください。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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