建物・土地活用ガイド

2023/07/28

企業不動産戦略における新しい社宅の活用方法

企業の不動産戦略における社宅・社員寮(以下、社宅で統一)は、「準生産資産」と位置付けられます。オフィスや店舗、工場、倉庫といった「生産資産」(収益を上げる資産)に従事する社員のための住まいなので、準生産資産というわけです。
しかし、昨今の社宅には、それ以外の役割を担う事例も増えてきました。今回は企業不動産戦略における社宅について考えてみましょう。

社宅を持つことは古いのか?新しいのか?

法人による土地や建物などの不動産所有状況や不動産活用状況は、時流により変化しています。2000年代前半は「持たざる経営」、つまり「バランスシートを軽くした経営」がもてはやされ、多くの企業が活用されていない不動産を手放しました。その中には古くなった社宅(社宅用地)もありました。首都圏など大都市では、こうした流れの中で一定規模以上の広い土地が流通し、その多くがマンションとして分譲されました。

社宅制度の見直し

この頃「自社所有の社宅が必要か?」という、社宅そのもののあり方について見直す企業が増えました。社宅に入居することを求めない社員が増え、従業員も「社宅は必要ではない」と考える方が増えていました。そのため、老朽化、空室の多さなど売却に直結するような理由がなくても、社宅を廃止する企業も増えました。
社宅を利用する人のイメージとしては、新卒の新入社員や転勤で自宅を離れている方などです。社宅を廃止した企業では、民間賃貸住宅を企業名で借りる借り上げ社宅制度を導入して代用しているようです。
廃止された社宅(社宅用地)は、主に「別の目的で用地を自社利用」もしくは「用地を売却」されました。

企業が不動産を持つ時代に戻る

近年は再び、企業が不動産を所有する傾向が高まっています。
この傾向は「法人土地基本調査」を見れば分かります。「法人土地基本調査」は、5年に1度行われる国の基幹統計の1つで、法人(企業)による不動産(土地や建物)の所有状況や不動産の活用実態を明らかにするものです。この調査の対象は全国の約49万の法人で、全国・地域別での調査結果が出ます。母集団は約200万法人で、概ね1/4の企業への調査です。
最新の調査は2018年で、次の調査は2023年(令和5年)に行われ、翌2024年9月に速報結果を公表予定です。
2018年調査によれば、土地や建物を所有する企業は土地:36.4%、建物:40.9%と、ともに法人全体の約4割となっています。その多くは資本金3000万円以下の中小企業です。しかし、土地の面積で見ると、資本金1億円を超える企業がその6割を所有しています。土地建物の両方を所有している企業は約3割です。この割合は、平成5年以降5年ごとの調査で、多少上下するものの大きな変化はありません。

社宅の役割が再認識

このような流れの中で、「社宅」について「人材育成・人材交流」と「企業業績に寄与」の2方向の観点から見直しが起こりました。
後者についてはこの後解説しますが、前者について簡潔に延べると「社宅」で寝食を共にすることで交流が産まれ、結束が強まり、先輩後輩という縦のつながりが増えることは、「人材育成」「人材交流」の観点で企業にプラスをもたらすことが再認識されています。

変わる社宅の役割@ 社宅を収益資産に替える

「再認識される社宅の役割」の2つ目は、「社宅活用で企業業績に寄与する」ということです。
具体的には、自社所有の社宅を自社社員だけで利用するのではなく、一部を賃貸住宅として貸し収益を上げる手法です。社宅の建て替えや新築の際に、自社利用分と外部への賃貸部分に分ける前提で建築、あるいはリノベーション工事を行います。賃料は社宅建築費の一部への充当、もしくは収益として利益寄与となります。

「法人土地基本調査」(2018年)では、法人が所有する「社宅・従業員宿舎以外の住宅」の件数が大きく伸び、1993年(平成5年)以降で最高値となりました。

法人が所有する「建物敷地」の利用現況別件数と増減の推移
※社宅・従業員宿舎以外の住宅:法人が所有する社宅・従業員宿舎を除く戸建住宅、賃貸住宅、マンションなど。

国土交通省「平成30年法人土地・建物基本調査」より作成

図は、法人が所有する建物敷地の利用別件数の過去6回分を並べたものです。これを見ると、社宅・従業員宿舎は平成5年・10年・15年・20年(2008年)にかけて減少しています。
逆に、主に企業が所有する賃貸用住宅などの「社宅・従業員宿舎以外の住宅」は、平成20年(2008年)を境に増加傾向にあります。平成30年(2018年)には、平成15年(2003年)の倍近くになっています。
このような賃貸住宅は新規に購入した土地に建てる例や収益物件を購入する例もありますが、縮小した工場の跡地に建てた事例、社宅の建て替えを機に賃貸住宅(一部社宅)を建てた事例など、企業が所有する遊休地(=低利用地・未利用地)に賃貸住宅を建てた事例も多いようです。
一部社宅の場合、建物の一部が賃貸住宅というパターン、あるいはひとつの敷地に2棟の集合住宅を建築して一方は社宅に、一方は賃貸住宅にするというパターンもあります。いずれにしても、次回調査では一部社宅も含まれる企業保有の賃貸住宅数は増えるでしょう。

変わる社宅の役割A 社宅をBCP対応基地に替える

社宅の新しい役割の2つ目として、「社宅にBCP推進ベースとしての役割」を持たせる事例を取り上げます。

BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
中小企業庁WEBサイトより

これは、ある企業の例です。通常は40人が入居する堅固な社宅を建築しましたが、災害時には300人が宿泊できるBCP拠点として社宅が利用されます。耐震性はもちろん、もらい火が防げる対策が施され、自家発電設備、非常食、移動用自転車などが常備されています。
このようなBCP基地としての社宅も今後増えることでしょう。

松建設は災害に対応した社屋の建築・建替えの実績も豊富です!
仮移転先から建築用地のお困りごと、賃貸と自社の事務所を併用した収益ビルへの建替え、工場・倉庫の建築など、あらゆる土地・建物のご相談をお伺いします。
「実績が見たい」など、ぜひ気軽にお問い合わせください。
ご相談フォーム  : https://www.takamatsu-const.co.jp/contact/
お電話でのご相談 : 0120-53-8101(フリーダイヤル)

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

疑問に思うこと、お困りごとなど、まずはお気軽にご相談ください

  • ご相談・お問合わせ
  • カタログ請求

建築・土地活用ガイド一覧へ