23年分の路線価では、全国平均で前年比+1.5%、2年連続の上昇となりました。新型コロナウイルスの影響がほぼなくなり、経済再開、国内外の観光客増などが顕著に反映され、回復もしくはコロナ禍前を上回る状況となりました。
今回は路線価について解説した上で、23年路線価についてお伝えします。
路線価とは
路線価の価格時点は1月1日で、公表は毎年7月1日※にされます。路線価は4つの「公的な土地価格」のひとつで、道路に面した宅地の評価額を示し、国税庁から毎年1回公表されます。国税庁が公表していることからわかるように、相続税・贈与税、固定資産税における不動産の価格算定に用います。
路線価は、全国にある宅地、田、畑、山林が対象となります。ここで言う「宅地」とは、住宅地という意味ではなく、住宅、商業施設、ビル、工場など、その用途にかかわらず「建物の敷地となる土地」を指します。
※2023年7月1日は土曜日だったため、公表は平日の3日でした。
税と路線価
相続税、贈与税の算定をする際に、現金や株式などは価格の査定が容易です。土地や建物といった不動産は、実勢価格に基づいて地価を申告してもいいのですが、個別性が強いため価格算定が容易ではありません。そのために、国税庁が路線価を設定しており、それに基づいた申告をすることができます。
2023年中に亡くなった方の相続に伴う相続税、2023年中に行われた贈与に伴う贈与税などは、今回発表分の路線価を使い価格算定することができます。
固定資産税評価額と相続税評価額
路線価と呼ばれるものには、固定資産税路線価と相続税路線価の2つがあります。
一般的に路線価と言えば、相続税路線価のことを指すことが多く、国に納める国税である相続税・贈与税等の課税を目的とし、国税庁が算定しています。つまり、今回公表されたもので、概ね公示地価の8割程度の地価となっています。
一方、固定資産税路線価は、市区町村(東京23区の場合は都)に納める地方税である固定資産税の算定を目的とし、各市町村(もしくは区)が算定しています。固定資産税路線価は、公示地価の約7割程度となっています。固定資産税路線価から固定資産税評価額が算定され、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税といった不動産の所有・取得に関する税の基準となります。価格時点は相続税路線価と同じく1月1日で3年ごとに更新※され、基準年の4月に公表されます。
3年に1度の更新のため、地価が上昇している状況であれば固定資産税路線価の据え置きは不動産所有者の不利益にはなりませんが、地価が下落している状況であれば不利益が生じます。そのため、地価下落時はできる限り固定資産税路線価額に反映させるため、市町村(東京23区の場合は都)の判断により簡易方法で修正を加えることができます。これを時点修正と言います。
※21年は3年に1度の見直し年でしたが、新型コロナウイルスの影響が大きかった為、1年間の見直しの据え置きがありました。
路線価の計算方法と路線価方式
路線価は、具体的には宅地が面している道路の路線価を確認し、その値をもとに宅地の相続税評価額を計算します。
例えば、路線価が300千円の道路に1辺だけ面している100uの宅地があったとします。このとき宅地の評価額は300千円×100u=30,000千円です。
国税庁などのサイトを見れば分かりますが、路線価が示されているのは道路に面している宅地のみで、道路に面していない場所は「路線価方式」と呼ばれる方法で計算します。路線価方式とは、宅地が面する路線に付けられた路線価を基準として、宅地の奥行・距離に応じる奥行価格補正、側方路線影響加算、二方路線影響加算等の補正などの調整を施して計算された金額によって評価する方式のことを言います。
路線価は、国税庁のホームページで検索して調べることができます。
23年路線価の状況
全国約31万6千地点(標準宅地)の平均変動率は前年+1.5%となりました。前々年は−0.5%、そして前年は+0.5%でしたので、前年から1ポイント伸び率が拡大したことになり、回復が鮮明です。
都道府県別の変動率で見ると、前年比で上昇した都道府県は27都道府県、変動率が上昇(もしくはマイナス幅が縮小)したのは45都道府県となっています。また、マイナスからプラスになったのは7県(横ばい含む)でした。
上昇率がトップだったのは北海道の6.8%(前年も1位:4.0%)、続いて福岡県4.5%(前年も2位:3.6%)、宮城県の4.4%(前年も3位:2.9%)、沖縄県の3.6%(前年も4位:1.6%)、東京都3.2%(前年は6位:1.1%)となっています。上昇率ベスト4は昨年と同じで、地価公示と同じように地方主要地域の上昇が目立っています。
県庁所在地の最高路線価
都道府県庁所在地の最高路線価地点を見ると、上昇したのは43地点でした。前年は31地点、前々年は8都市の地点でしたので、大幅に増えほぼ全国に広がっています。
下落したのは4地点で、前年は16地点でしたので、全国的な地価回復状況がわかります。
都道府県庁所在都市の最高路線価
※千葉県千葉市は最高路線価地点に変動があったため圏外にしています。
国税庁資料より作成
図は、都道府県県庁所在都市の最高路線価を「前年比」の順に並べたものです。
トップは岡山市、次いで札幌市、さいたま市、福井市、奈良市、岐阜市、秋田市の順となっており、地方の県庁所在地中心部での地価上昇が顕著である事が分かります。地方都市の駅前などで中心地再開発が続き、人口減少が続いている都市の中心地でも路線価の顕著な上昇が見られました。
23年への見通し
2024年の路線価は、経済状況の活況が鮮明な事、観光客の増加、人流増加が顕著な事などから、多くのエリアで2023年を上回るでしょう。また、これまで開発が進んでいなかった地方都市の中心地再開発が進み、こうしたエリアの路線価上昇基調がより顕著になるでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
疑問に思うこと、お困りごとなど、まずはお気軽にご相談ください