建物・土地活用ガイド

2023/12/21

利回りはまだ下がる?最新!キャップレートの解説

11月27日に(財)日本不動産研究所が、最新の「不動産投資家調査」を公表しました。
この調査は、アセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などへ「期待利回り」(=キャップレート)などについてアンケート調査したものです。キャップレートの動向からは、不動産投資への意欲、不動産価格動向が伺えます。

今回は第49回「不動産投資家調査」(調査時点:23年10月)のデータをもとに、現状の不動産投資におけるキャップレートの動向について解説します。

キャップレートとは

キャップレート(Capitalization Rate)について簡単に説明すると、「不動産投資における利回りの指標」の一つで「期待利回り」のことを指します。収益還元法での収益物件価格の算定の際年間収益÷利回り=不動産価格で計算されますが、キャップレートがここでの利回りの基準として用いられる例が多く見られます。この計算式では、仮に賃料水準が一定とすると「キャップレートの動向は、不動産価格の動向を反映したもの」とも言えます。キャップレート低下は不動産価格の上昇を意味します。ただし、キャップレートはあくまでも「投資家など市場参加者の期待値」ですので、実際の取引利回りとは異なることに注意しましょう。
※キャップレートはエリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって変わってきます。

オフィスビルの動向とキャップレートの要素分解

オフィスビルでは、多くのエリアで横ばいでしたが、キャップレートが下がった地域は、東京都心では西新宿・渋谷・池袋、他の政令指定都市では仙台・横浜・大阪・広島の各地域、それぞれ0.1ポイント低下しました。

オフィスビルでのキャップレートが最も低い東京丸の内・大手町エリアでは3.2%で、約2年間横ばいが続いていますが、引き続き調査開始以降2000年以降最低値となっています。
キャップレートを理論上で要素分解するとリスクフリーレート(=10年物国債金利を想定)+リスクプレミアム(不動産保有するリスク)+立地プレミアムで表現されます。調査によればオフィスビルの想定平均投資年数は7年ですから、リスクフリーレートは10年物国債金利がニアリーとして使えます。また、立地プレミアムは最も期待利回りの低い東京丸の内・大手町をベース(±0)として各地それぞれ加算します。

この理論を踏まえて考えれば、調査結果によるとオフィスビルにおけるリスクプレミアムは10年物国債に対して2.8%ですので、11月時点の10年物国債金利約0.7%を足せば3.5%となります。しかし、丸の内・大手町エリアのオフィスビルキャップレートは3.2%ですからそれよりも低くなっています。理論上で考えるよりも低い利回りが「期待利回り」となり、おそらくそれよりも低い利回りで取引されているものと思われます。
23年春以降はオフィスビル回帰が進んでおり、都心のオフィス空室率や賃料も下げ止まり感が出てきました。こうしたことから、この先もオフィスビル投資意欲は高まるものと思われますが、ここまで説明したように「理屈で考えるよりもだいぶ低い利回り」になっており、「さすがに、これ以上は…」との声も聞かれています。

賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート

賃貸住宅の期待利回りでは、東京・城南エリアが本調査開始以来最も低い値を更新(前回も最低値を更新)し、住宅の期待利回りの低下は多くの地方都市でも見られました。つまり、賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛で賃貸用住宅の価格は上昇基調にあるということになります。

ワンルームタイプ※の賃貸住宅一棟のキャップレートは、調査を行った全国主要10都市のうち、仙台・横浜・名古屋・京都・福岡で0.1ポイント低下しました。それ以外の6都市では横ばいで、ワンルームタイプは総じて「横ばい」の状況です。
※25〜30u、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定

立地プレミアムのベースとなる東京城南エリア※を例に見れば、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.5%でこちらも前回と同じとなっています。オフィスビルと同様に、都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、「ここまで高いと手が出にくい」という状況のようです。
※目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定

ファミリータイプの状況

賃貸住宅のファミリータイプ※では多くの都市でキャップレートが低下しました。調査10都市のうち、東京城南・仙台・名古屋・京都・神戸・広島・福岡で0.1ポイント、札幌では0.2ポイント低下しました。横ばい地域は2地域で、ワンルームタイプに比べ全国的に低下している状況が伺えます。
※50u〜80u、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定

ベースとなる東京・城南地域は、22年10月 4.0% →22年4月 3.9% →23年10月 3.8%と推移しており、最新ではワンルームタイプと同じ値です。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%で、こちらもワンルームタイプと同様です。

これまで投資物件としてはワンルームタイプの方がキャップレートは低い傾向にありました。安定的に賃貸住宅需要があり空室が出にくく、賃料の価格変動が小さいこともあって手堅く見られるためです。
しかし、このところの動向ではファミリータイプのキャップレートが低下している都市が多く、ワンルームタイプとファミリータイプの値が同じ都市が6つあります。その他地域でも差は0.1ポイントです。

ワンルームタイプはインカムゲイン狙いの安定感では勝るものの、キャピタルゲインはそれほど大きく狙うことが難しくなります。この逆がファミリータイプ物件です。マンション価格の上昇が続いている状況下では、多少のリスクの差よりもキャピタルゲインを狙う思惑なのでしょうか。

宿泊特化型ホテルの動向

いわゆるビジネスホテルなどの宿泊特化ホテルは観光需要に加えてビジネス需要も回復したことで、北は札幌から南の那覇まで、すべての調査地域で前回よりキャップレートが低下しました。

まだまだ投資意欲は高い

「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は95%と、前回の96%と大きな変化はなく積極姿勢が続いています。
一方「新規投資を控える」の回答は5%と、前回調査の3%から2ポイント上昇しましたが、誤差の範囲と言えるでしょう。
もう少し金融緩和政策が続く様相ですが、この調査からは金利上昇を心配しつつも不動産市況はまだしばらく活況が続きそうです。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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