建物・土地活用ガイド

2024/02/21

2023年 年間の新設住宅着工戸数の分析

2023年12月分の新設住宅着工戸数が公表され、2023年の1年間分の数字が出揃いました。今回は2023年の新設住宅着工戸数を、カテゴリーごとに解説します。

過去15年で3番目の少なさ。23年年間の新設住宅着工戸数

2023年の新設住宅着工戸数の総数は819,623戸でした。昨年は859,529戸でしたので、−4.6%となります。3年ぶりに82万戸台を下回る数字です。
過去5年の数字が下表になります。

■新設住宅着工戸数 (年計)(上段:実数 下段:前年比)


国土交通省「住宅着工統計」より作成

ここ15年の新設住宅着工戸数では、リーマンショック後の2009年に78.8万戸、前年比−27.9%となり大幅に減少しました。そこから徐々に回復して80万戸台〜90万戸台が続きます。2014年の消費税増税(5→8%)と相続税制改正も控えていた2013年は駆け込み需要が起こり100万戸に迫る98万戸となりましたが、2011年から2020年までは80万後半から90万戸台が続きました。2011〜20年までの10年間の平均は90.9万戸となっています。

2020年は新型コロナウイルスの影響が大きく前年比−9.9%、2021〜22年は好調な経済状況を受けて前年比プラスが続きましたが、2023年は前述のように前年比マイナスとなり、リーマンショック直後の2009年、翌年の2010年(81.3万戸)に次ぐ低水準となりました。

歴史的な低水準となった「持ち家」着工戸数

ここからは、各カテゴリー別に見ていきましょう。
下表は2022年1月から2023年12月までの2年間のカテゴリー別の新設住宅着工戸数を月ごとに示したものです。

■2022年〜23年12月までの月別新設住宅着工戸数


国土交通省「住宅着工統計」より作成

2023年の新設住宅着工戸数で最も目立ったのは、自己所有の土地に自己利用の自宅を建築する「持ち家」の着工戸数が大きく減少したことでしょう。2023年年間の「持ち家」の新設住宅着工戸数は、22.4万戸と歴史的な低水準となりました。
月単位で見ても2021年12月以降25カ月連続で前年同月比マイナスが続いており、2022年年間では前年比−11.3%、2023年は前年比−11.4%と2年連続で2桁のマイナスです。リーマンショック直後の2009年でも28.4万戸、新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年でも26.1万戸でしたので、大幅な減少です。
住宅建築費の上昇、土地取得費の上昇に加えて、中古マンション価格が上昇する一方で中古戸建住宅が伸び悩む状況等から、戸建志向の低下も影響しているものと思われます。

横ばい続く貸家着工戸数

次に「貸家」の着工戸数を見てみましょう。
賃貸住宅建築である「貸家」着工戸数は、土地活用での賃貸住宅建築の一巡、建築工事費上昇、賃貸住宅適地の不足、金利上昇懸念、利回りの低下など逆風が吹く中で、年間の着工戸数はほぼ横ばいの34.38万戸でした。2022年の34.50万戸との差は1231戸なので、平均20戸とすると約60棟の減少と誤差程度です。

J - REITがさかんに物件を入れ替えており、私募REITの組成が増え、また個人投資家の収益賃貸住宅投資が未だに活況が伺えます。ただ、上表で月別に見ると2023年8月以降は前年同月比マイナスとなっています。これは、投資意欲は旺盛であるものの賃貸住宅建築のための適地不足が顕著になっていることが理由だと考えられます。

分譲マンションの着工戸数

分譲住宅は、分譲マンションと分譲戸建に分かれます。このうち、分譲マンションは10.7万戸で、2022年が10.8万戸でしたので、ほぼ横ばいとなりました。
デベロッパーの思惑が大きく左右する分譲マンション建築数ですが、近年は用地仕入れ価格上昇、建築費上昇のため、どうしても販売価格が高くなります。そのため魅力ある場所で用地を仕入れることができるかがカギとなっており、無理して供給戸数を増やしていない状況と言えます。

分譲戸建の着工戸数

一方、かなり苦戦しているのが分譲戸建です。2023年年間の着工戸数は13.7万戸、2年は14.5万戸でしたので−6%です。月別では、2022年11月以降14カ月連続で前年同月比マイナスとなっています。
郊外や地方都市に建築されることが多い分譲戸建は、2020年後半から2022年前半にコロナ渦のリモートワーク推進で郊外志向が高まり建築数を増やしました。この時に先取りする形で分譲戸建需要を刈り取ったことが理由の1つでしょう。

しかし、それ以上に大きな要因は「分譲戸建」の価格が上昇していることです。 価格上昇の理由は大きく3つあります。

@分譲戸建の主戦場である都市部周辺地域の住宅地地価の上昇が顕著であること
2023年の基準地価を見ると、住宅地ではすでに高値となっている都市部よりもその周辺地域の上昇が顕著でした。この傾向は首都圏でも関西圏でも札幌圏でも福岡圏でも見られました。

A近年は郊外でも立地のよいエリアの開発が進んできた(分譲した)こと
分譲戸建用地(適した土地)は減少しています。その少なくなった適地を、例えば複数の業者が入札する等すれば、用地仕入れ価格が上昇することになります。

B住宅建築費の上昇

これらが重なり、分譲戸建価格は上昇していると思われます。

24年の新設住宅着工戸数の見通し

「持ち家」は引き続きかなり厳しい状況が続くでしょう。2023年に大幅に数が減った要因は前述しましたが、その要因は今年も続きそうです。かなりの確率で「持ち家」着工戸数は今年よりも減るでしょう。この傾向は「分譲戸建」も同様と思われます。
また、「貸家」は旺盛な賃貸住宅投資熱は続くと思いますが、適地の不足は避けられそうにありません。住宅賃料の上昇が都市部から徐々に郊外へも伝播していますので、都市部周辺地域での賃貸住宅投資が進めば2023年並みの戸数を維持できるかもしれませんが、着工戸数はやや減少すると思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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