建物・土地活用ガイド

2024/05/16

円安がもたらす更なる建築工事費上昇と金利の動向

日銀金融政策決定会合が4月25−26日に開催され、政策金利にあたる「短期金利の誘導目標」を現状の「0〜0.1%程度」に据え置きと決定しました。一方で、マイナス金利を解除した前回会合で「これまでとおおむね同程度の金額(月間6兆円程度)」とした国債買い入れ額については「減らす」ことが予想されていましたが、変更はないということになりました。
 24年後半の建築工事費と金利の動向はどうなるのでしょうか?

会合後円安が進む

円安が進む中で「なんらかの円安対策があるかも」という予想に反して、「いまのところ、経済に大きな影響を与えていない」と植田総裁が記者会見で発言したことを受けて、為替相場はさらなる円安となりました。 

26日の12時すぎに「政策金利据え置き」決定の公表を受けて、為替相場(ドル円相場)は、午前中155円台半ばで推移したドル円相場は、一気に156円台を超える水準で取引されるようになりました(総裁会見中)。ちなみに、3月19日の時は、政策金利を上げる決定にも関わらず149円台から150円台に1円以上の円安が進みました。もう少し幅のある利上げを予想していたものが僅かの利上げに留まったからと考えられます。今回の据え置き決定でも、アメリカ経済が引き続き好調かつアメリカの利下げが行われない状況のため、翌日以降も円安基調が続くことが予想されました。そして、4月29日には1ドル160円を超える水準となりました(その後、155円台に戻りました)。

 円は、ドルだけでなく多くの外貨に対して全面安の状況で、たとえば、ユーロは1999年のユーロ導入以来の最安値(1ユーロ=171円台)となっています。これが続くならば経済に大きな影響をもたらすことになると思われます。

インフレ見通しは上昇

日銀は、年4回(通常1月、4月、7月、10月)金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を決定し公表しています。今回の4月の会合では、この展望リポートが合わせて公表されました。

リポートでは、消費者物価指数(生鮮食品を除く)上昇率の見通しを2024年度は前年度比+2.8%(1月のリポートでは+2.4%)、25年度は+1.9%(同1.8%)にそれぞれ上方修正した。今回から新たに公表した26年度の見通しは+1.9%となっています。つまり、前回の見通しに比べてインフレ率の見通しを上方修正したということになります。為替の影響、原油価格上昇の影響などを加味したもののようです。

円安が続く状況で生活に影響

円安傾向は、ドル円相場では日本と米国の金利差によるものが直接的な理由ですが、根源的には「強いアメリカ経済」と「相対的に弱い日本経済」という構造によるものです。現在の状況では、日銀も明確に示しているように「金利を上げる状況にない」つまり、「日本経済はそれ程強くない」ということですから、いまの双方の状況が続くならば、円安基調は続くことになるでしょう。
そして、石油などの資源や多くの原材料を輸入に頼る我が国においては、円安は企業物価の上昇となり、ひいては消費者物価の上昇になります。

つまり、これからしばらくの間「円安」が続き、そして「インフレ」基調はもう一段進みそうな可能性が高いということになり、我々の生活にも影響が出てくることでしょう。一方で、多くの売上を海外市場で創る企業にとっては、円安はプラスとなり、こうした企業の株価は上昇するでしょう

企業物価指数の上昇は建築費増につながる

ちょうど「ウッドショック」が言われていた時、輸入原材料の価格上昇が顕著となり、指数でみれば21年の半ばから企業物価指数は上昇しました。海外でのインフレと石油価格などが上昇し輸送コストが上昇したことが要因でした。この間も為替相場はジワジワと円安基調でしたので、これらが相まって物価上昇となり、消費者物価指数は22年に入り上昇しました。そして、建築工事費も上昇しました。

昨今の状況では、原油価格上昇、海外での物価は高止まり、そこにここ30年では最も円安状況となっていますので、原材料費上昇に伴う物価上昇は避けられない状況といえるでしょう。

金利の動向と見通し

最後に金利の動向です。今回の金融政策決定会合では政策金利は据え置きとなりましたので、変動金利に影響がある短期プライムレートは、基本的には大きな変化はないでしょう。将来の利上げを見通した多少の上昇はあるかもしれませんが、大きな変化はないと思われます。

一方、固定金利に影響のある長期国債金利についは、金融政策決定会合後、数日間は0.2〜0.4%程度上昇していましたが、4月末(GWの合間)では、0.8%台で留まっています。多少の上昇可能性はありますが、あってもジワジワ上昇する程度だと思われます。

まとめ

ここまで見てきたように、24年の後半は、インフレと円安に伴う原材料費上昇にともなう、建築工事費の上昇は避けられそうもない状況となってきました。

この先に、建築をお考えの方は、金利に大きな動きのない(=低金利が続いている)間に、契約をしている方がよいと思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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