今回は、第50回「不動産投資家調査」(調査時点:24年4月)のデータをもとに、現状のキャップレート動向を賃貸住宅にフォーカスして解説します。
キャップレートの推移で分かる投資家の投資意欲
収益還元法での収益不動産価格の算定のベースは【年間収益÷還元利回り=不動産価格】で計算され、これに個別要因を加味して価格を計算します。しかし、個別性の強い不動産における還元利回りを算出することは難しいため、目安としてキャップレート(Capitalization Rate)が用いられことが多くなっています。キャップレートとは「不動産投資における利回りの指標」の一つで、投資家の「期待利回り」のことを指します。キャップレートは、本来は個別により異なるべきですが、目安としても、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって、当然変わってきます。
ここからは、最新(24年4月時点)のキャップレート動向を見てみましょう。
賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート
賃貸住宅の期待利回りは、全国的に最低水準が続いているという状況でした。全国で最も低いとされるエリアの1つである東京(城南エリア)では、前回調査(調査史上最低)から横ばいの3.8%となりました。ここでの、ワンルームタイプは25〜30u、築5年未満、駅徒歩10分以内、総戸数50戸程度の1棟物件の想定です。半年ごとに行われる本調査ですが、前々回調査では、史上最低を更新していましたが、前回そして今回は横ばいという結果になりました。賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低の水準となり、賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛で賃貸用住宅の価格は引き続き上昇基調にあるということになります。
全国主要10都市では、前回調査と同数の6都市が横ばいとなりましたが、大阪・神戸・広島・福岡の西日本の4都市では0.1ポイント低下しました。
期待利回りが最も低い地域の一つで、立地プレミアムのベースとされる東京城南地区(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)では、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.5%でこちらも前回と同じとなっています。また、東京城東地区(墨田区・江東区、東京・大手町まで電車などで15分圏内想定)では、期待利回りは3.9%、取引利回り3.6%でこちらも前回と同値となりました。この数字だけ見れば、都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、価格上昇には天井感があるようです。また「期待利回り」と実際の「取引利回り」には、未だ0.3%の開きがあり、ここには「投資家の投資意欲の旺盛さ」が伺えます。
全国主要都市のワンルームタイプのキャップレートを2004年からの推移をみれば、下記のようになります。
賃貸住宅の期待利回り(CAPレート)の推移
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
ファミリータイプの状況
一方で、賃貸住宅(1棟)のファミリータイプ(注:想定は広さ50u〜80u、それ以外はワンルームタイプと同じ)のキャップレートは、調査10都市のうち半分の5都市(仙台・京都・大阪・神戸・福岡)でいずれも0.1ポイント低下しました。こちらも、西日本での低下が目立っています。
ベースとなる東京・城南地区をみれば、22年10月 4.0% →22年4月 3.9% →23年10月 3.8% →24年4月 3.8%と推移しており、引き続き過去最低が続き、前回調査と同様にワンルームタイプと同じ値となっています。また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%、でこちらもワンルームタイプと同じとなっています。
投資物件としては、安定的に賃貸住宅需要があり、空室が出にくく、賃料のボラティリティ(価格の変動性)が小さいこともあって手堅いとみられるワンルームタイプの方が、キャップレートは低い傾向にありました。しかし、このところの動向をみれば、ファミリータイプのキャップレートが低下している都市が多く、ワンルームとファミリータイプが同じ値は主要10都市のうち7都市で、残り3都市(名古屋・神戸・広島)でも差は0.1ポイントと僅差となっています。
ワンルームタイプでは、インカムゲイン狙いの安定感では勝るものの、キャピタルゲインはそれほど大きく狙うことが難しくなります。この逆の状況がファミリータイプ物件です。マンション価格の上昇が続いている状況下では、「多少のリスクを負ってもキャピタルゲインを狙う」という思惑なのでしょうか。
まだまだ投資意欲は高い
「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は95%(前回も95%)と大きな変化(横ばい)はなく積極姿勢が続いています。一方「新規投資を控える」の回答は5%(前回も5%)と、こちらも横ばいとなりました。
また、マーケットサイクルについては、東京・大阪とも今がピークとする回答が最も多くなりましたが、「半年後」についても、「ピーク」とする回答が最も多く、高値で好調な状況がまだしばらく続きそうと見ている投資家が多いようです。
しかし、一方で長期金利を中心に金利上昇がみられています。今後の金利動向を心配しつつも、不動産市況はまだしばらく活況が続きそうと思われます。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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