建物・土地活用ガイド

2024/06/30

オフィス選択に変化のキザシ

23年に入って以降、よりグレードの高いオフィスを移転する企業が増えています。新築ビルの供給が増えたことや、以前に比べて賃料低下期だったこと等が直接的な要因と思われますが、他の思惑も見え隠れします。実際に、CBREの調査によれば24年1〜3月のオフィス賃料は全国主要13都市のうち12都市で、前四半期(23年10〜12月)に比べて上昇したとのことで、これはコロナ禍直前20年1〜3月期以来のようです。このように、大都市部でのオフィスビルの空室率が改善傾向にあります。またオフィス賃料もコロナ禍以降低下が続いていましたが、徐々に上向きとなってきました。

多くの企業で人手不足から求人数を増やしており、採用活動が活発化しているなかで、「より働きやすい環境」を用意する企業が増えており、その一環としてオフィスを移転させているものと思われます。

オフィスビルの選択基準の一部変化

オフィス選定をする際には、賃料や立地などが普遍的な最上位基準ですが、それに加えて(コロナ禍を経て)「オフィスの選択基準が変化」、また「オフィス選択基準の多様化」しているようです。こうした傾向は大企業だけでなく、中小企業へも波及しているようです。

生産拠点としてのオフィスビルにおいては、コストとして発生する「賃料」と活動する際の利便性そしてブランドイメージも加味した「立地」、という選択基準は常に上位となります。しかし、2023年11月に公表された「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」((株)日本政策投資銀行、(株)価値総合研究所)の調査データによれば、借り手にとってのオフィスビルにおけるニーズは多様化しているようです。賃料や立地といった1次的なフィルターをかけた後に、以下のような2次的な選択基準があり、それらの点も、1次的選択肢と同じくらいに高いポイントとなっています。

そのポイントとは下記です。

@「リスク対応」
➁「BCP対応」(≒レジリエンス)
B「環境配慮」

ここからは、上記について順に解説します。

リスク対応〜耐震性〜

「オフィスは長時間過ごす建物」という点では、最上位に来るのがリスク対応(安全性)に関することでしょう。

まずは耐震性です。新耐震基準を満たす築浅ビルでは問題ないと思われますが、年初に能登地震があり、また南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの発災可能性が高まっている昨今ですので、とくに旧耐震基準ビルは厳しい状況におかれているようです。

旧耐震基準ビルは、中小ビルを中心にまだまだ多く存在していますが、入居企業はさらにこれまで以上に移転を検討する企業が増えると思われます。一方、国は建物耐震化目標を掲げ、国や自治体は補助金を出すなどして、耐震補強工事を推進しています。

地震などの震災は、広範囲にわたり影響をもたらす上、発災時期の想定ができず、また発災から対応までの時間的猶予はありません。「いつ起こってもおかしくない地震」に対応するために、入居企業もビルオーナーも早急な対応が求められます。

                          

リスク対応〜水害リスク〜

一方で、ある程度予測できるのが水害リスクです。精度の高い気象庁の予報が出されている現在では、水害に対しての事前想定が可能です。また、国土交通省のハザードマップポータルサイトを見れば、該当地位置での洪水、高潮、津波といった水害に加えて、土砂災害のリスクを知る事ができます。

このように、水害はある程度事前にリスクが想定できます。しかし、リスクを想定できても対応を取っていなければ、リスク回避が困難な場合もあり得ます。水の侵入を防ぐ防潮板の設置というハード面を整えることはもちろん、定期的な建物点検、定期的な避難訓練、などを実施することがビルオーナーとビル管理会社に求められます。こうした対応は、ビル保有会社や管理会社で差が大きくなっています。

昨今では「異常気象」というワードが「あたりまえ」になりつつあり、想定をこえる台風や降水量が増えていることはご承知のとおりです。該当するような立地のビル、管理会社の事前想定が不十分なビルに入居の企業の中には、移転を検討している企業も増えているようです。

BCP対応

気象庁のデータによれば、2016年〜2023年6月までにマグニチュード6を超える大きな地震は13回あったようで、「近年は大きな地震が多いな」と感じる方も多いことでしょう。地震だけでなく、様々な気候変動がもたらす災害対応のために、入居企業は「万が一の災害の際に、どう対応するか」を検討する企業が増えています。

そのような中で、大企業を中心にBCP策定を行う企業が増えてきました。BCPとは、地震・水害といった災害などによる緊急事態に備えた、企業等の事業継続計画(Business Continuity Planning)のことです。BCPを策定する企業は大企業だけでなく、中堅企業も増えることは確実です。

BCP対応では、例えばゼネコンのようにいち早く活動が求められる企業の場合、社宅を緊急時の本部的機能拠点とする企業も見られますが、ほとんどの企業の場合、災害対策機能拠点は、本社を構えるオフィス(ビル)となるでしょう。

そのため、入居するビルの選択基準に、そのビルが「BCP対応がどれくらい充実しているか」を上げる企業が増えているようです。

人材採用とオフィス

コロナ禍が過ぎ、経済の活性化が進み、また物価上昇が顕著となっていく中で、人材不足が続いています。また、すでに人口減少期に入り、生産者人口の減少は顕著となっており、この先も企業は人材確保に苦戦することが予想されます。企業が人材を「選ぶ」時代から、企業が「選ばれる」時代への変化は、一時的なものではなくこの先しばらく続くものと思われます。

それにともない企業は採用戦略の見直しを行い、「選ばれる企業になる」ために様々な対応を取っています。待遇(給与)をよくするとともに、職場環境(オフィス環境)をよくすることは、採用活動において有利に働くことは間違いありません。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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