建物・土地活用ガイド

2024/08/07

賃貸住宅の建て替えと立ち退きについて

民営の賃貸住宅は70年代以降、80年代・90年代に多く建築されました。人口ボリュームゾーン世代の方が社会に出て世帯を持ち、都市部に人口集中が進んだ時期と重なります。それらの賃貸住宅が建て替え期を迎えています。

旧耐震賃貸住宅は全国で300万戸超

我が国では1981年に建築基準法が改正されましたが、それ以前に建てられた賃貸住宅もいまだ多く存在しています。2018年の「住宅・土地統計」(最新版は2023年調査ですが、該当部分の集計結果は、執筆時点未発表:24年秋以降公表予定)をみれば、全国に存在している貸家(賃貸住宅)のうち全体の17.8%は1980年以前に建てられており、その数は309万5900戸となっています。

また、全国平均の17.8%を超えている府県は西日本ばかりで、例えば大阪府24.7%、京都22.2%、兵庫20.8%となっています。さらに、関西主要3都市に絞ってみれば、大阪市は20.9%、京都市も20.9%、神戸市は22.4%と、どこも高い割合となっています。

 

賃貸住宅の建て替えの検討

一般的に賃貸住宅経営の建て替えを検討し始めるのは、周辺物件との競争力低下が顕著となる築30年を過ぎたあたりからだと言われています。

賃貸物件の競争力を具体的に言えば、周辺に新しい賃貸住宅が増えたこと等により「空室が増え始めた」「賃料下落を余儀なくされた」などとなります。

建て替えに踏み切るためには、まずローン残債や資金の状況がポイントとなります。いうまでもありませんが、残債がある場合は、建て替えをするのが難しくなります。また、その場所において「この先も賃貸住宅需要が見込まれる」ことも求められます。

 

賃貸住宅の建て替えを決断すると初めにすること

賃貸住宅の建て替えを決断したとして、最初にしなければならないことは、現在入居されている方々への告知と、建て替えまでの間の入居募集をどうするかということです。特に入居者の方に「建て替え」を理由に退去してもらう「立ち退き」は、難航する事例も多く見られます。

「建て替えを決断」するような状況の賃貸住宅は、満室稼働であることは少ないようですが、それでも例えば、30部屋で80%の稼働とすれば24室の入居者の方々に期間内に退去してもらうという交渉となります。建て替えを検討し立ち退き交渉を行うのは、それなりに費用と時間のかかるハードワークになります。

普通賃貸借契約と定期借家契約

一般的に、賃貸住宅オーナーと入居者の方が結ぶ賃貸借契約は「普通賃貸借契約」で、これは貸す側が、一方的に「契約更新しない」ということができない契約形式です。つまり、入居者の方は、いつまでも住むことができるという入居者の権利を守る契約形態と言えます。賃貸借契約には、他に「定期賃貸借契約」という形式がありこれは期間の定めがあって、基本的には更新できない賃貸借契約です。ただし、オーナーサイドがOKを出し、入居者が希望すれば、賃料を新しく定めて更新できます。そのため、定期賃貸借契約は、普通賃貸借契約における金額よりも、多少賃料を安くするのが一般的です。

賃貸住宅の建て替えに際しては、入居者の方に退去(立ち退き)をしてもらわないといけませんが、この時「普通賃貸借契約」を交わしている入居者の方には「立ち退き料の支払い」と「正当事由を伝える」ということを行わないと認められません。

このような交渉が「立ち退き交渉」と呼ばれるものです。この立ち退き交渉は、オーナー本人が行うか、弁護士が行うことと定められています。もちろん、弁護士に依頼すると、費用がかかります。また、オーナー本人が行うに際して、管理会社などがサポートしてくれることもあります(高松建設においてもサポート体制が整っています)。

立ち退き料はいくら?

立ち退き料は、一概に金額規定はありませんが、一般的な相場とされているのは、家賃の6カ月分と言われています。それに引っ越し代を上乗せするなどという「誠意」分の上乗せをすることもあるようです。

立ち退き交渉は、すんなりといくこともありますが、「どうしても住み続けたい」という入居者の方がいれば、長引くことになります。じっくりと話し合って、立ち退きまでの期間をある程度長くとって、そして立ち退き料を支払うことで、納得してもらう必要があります。

賃貸住宅の建て替えを検討されている方は、新たな物件建築の検討の前に必ず行わなければならない、「立ち退き交渉」があることご理解していただき、そのためにも早め早めに松建設のような、専門家に相談していただきたいと思います。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

建築・土地活用ガイド一覧へ