建物・土地活用ガイド

2024/07/31

【超速報】日銀が利上げを決定。不動産市況と生活に与える影響は?

日銀は7月30−31日に開かれた金融政策決定会合で、政策金利の引き上げを決めました(7月31日発表)。それまでの0%〜0.1%程度とされていたものが0.25%となります(8月1日から適用)。
マイナス金利を解除したのが3月の会合でしたが、今回は追加利上げということになります。政策金利がこの水準になるのは2008年12月に0.3%だった以来で、約16年ぶりとなります。「安定的・持続的な2%程度の物価上昇を実現する」ということから、「金融の緩和状況を調整する(つまり、緩和状況を徐々に戻す)」という声明を日銀は発表しています。
政策金利の利上げにより、預金金利等は上昇する恩恵を受ける一方で、住宅ローン(変動型)の金利(利息分)は増え、企業による買い入れ金利は上昇します。

また、国債買い入れ額を現在の月6兆円から2026年1〜3月に月3兆円に減らす方針を決定しました。8月から減額を開始し、四半期ごとに4000億円ずつ段階的に減らしていく予定です。これにより、日銀の国債保有残高は、2026年3月までに約7〜8%減少する見込みです。この減額により長期金利が上昇する可能性が高いですが、国債金利が大きく上昇すれば上限を超えた介入もあり得るため、急激な上昇はないと考えられます。

利上げがもたらす好循環と家賃の上昇可能性

日銀による利上げの判断材料として、「2%以上の安定した物価上昇見通し」が見えてきたことと、最後まで懸念材料として残っていたのが賃金の動向です。24年の春闘では賃金上昇率(ベアと定期昇給の合計)が5%を超え、中小企業においても4%を超えている状況ですが、実質賃金は2%台後半の物価上昇が続いていることもあり、まだプラスとなっていません。しかし、夏以降はプラスになると思われます。

すでに物価上昇は顕著であり、このあと賃金上昇が顕著となれば、すでに上昇傾向の家賃が、もう一段上昇する可能性が高まります。「家賃は物価上昇に送れて上昇する」ことはよく知られています。また、賃金が上がれば、家賃に回すお金が増え、家賃上昇に耐えうる状況となり、好循環が生まれます。

また、全国民の総額で1100兆円を超えるとされている現預金に対しての利息が増えることになりますので、これも好循環となるでしょう。

さらに、執筆時点では為替相場は152円台でやや円高基調で、日銀の利上げにより円高基調になると思われますが、このあとの米国FRBの金融政策により大きく動くかもしれません。仮に、円高基調が続けば、輸入原材料などのコストは減少し、コストプッシュ型の物価上昇にはブレーキがかかるかもしれません。

住宅ローン 変動金利への影響

一方で、気になるのは、住宅ローン金利への影響です。長期金利(概ね10年物国債金利)の状況で決まる固定金利と異なり、住宅ローンの変動型金利は、短期プライムレートに連動して決めている金融機関が多いようです。

執筆時点(7月31日)午後では、短期プライムレートを上げている金融機関は一部に限られていますが、政策金利の利上げが決まりましたので、短期プライムレートそして住宅ローンの変動型金利の引き上げを検討する銀行が増えるものと思われます。すでに7月22日に、今回の利上げ決定を見越してなのか、住宅ローン残高が2位のソニー銀行は、住宅ローン(変動型)の金利上昇を発表しています。追随する銀行が増えるのは確実でしょう。

今回の利上げに伴い、短期プライムレートを上げる金融機関がどれくらいあるかは分かりませんが、政策金利0.25%の上昇に対して、短期プライムレートの上昇は0.1%〜0.15%程度と予想されます。このように上昇幅は僅かであり、現状が異常とも思える低金利なので、誤差の範囲とも言えますが、なにせ16年ぶりですのでメディアは大きく報じることでしょう。その影響でネガティブなムードになる可能性がありますので、冷静な対応が求められます。

変動金利の見直しは、多くの金融機関で4月と10月の年2回行われます。そのため、最も早いケースで10月以降分からとなります。金利の上昇は、ゆっくりジワジワと、しかし確実に上昇傾向にあります。すでに変動金利で住宅ローンを借りている方、これから借りようとしている方は、今後住宅ローン金利が上がるという認識を持っておかなければならないでしょう
 

JREIT市場への影響

政策金利上昇が決定しましたが、上昇幅が僅かですので、それほど大きな影響はないとおもわれます。しかし、理論上は以下のような事が考えられます。

キャップレート(投資家による要求利回り)は、長期国債金利+不動産リスクプレミアムで理論上計算されますので、国債の買い入れ減額による長期国債金利上昇可能性が高まり、キャップレート上昇の可能性があります。そして、キャップレートの上昇は不動産価値(≒投資口価格)の下落を招きます。昨今のJREIT価格下落の要因は、このことを織り込んでいたものと解釈できます。

次に、利上げに伴い借入金利の上昇つまり支払利息増加の可能性が高まります。支払い利息が増加すれば、分配金の減少可能性があります。現在のJREIT各銘柄の借入比率(LTV)は40%台の銘柄が多く、平均は45%程度です。JREIT各銘柄は、政策金利上昇を見越して変動金利の割合を下げ、固定金利での借り入れを増やしたり、借入期間を短くして金利上昇リスクを軽減させたりしていますが、多少影響はあるものと思われます。

また、先に述べたキャップレート上昇の可能性は、収益還元法に基づいて鑑定される不動産価格の下落につながる可能性があります。収益還元法では、分子がNOIで分母は利回りで計算しますが、分母だけが上昇すれば価格は下がり、その結果NAV(純資産価値)が下がり、投資口価格が横ばいならNAV倍率も下落します。しかし、利上げ局面は物価上昇期ということですから、前述のように賃料上昇可能性が高まりますので、NOIも上昇する可能性が高まりますので、時差はあったとしても影響は限定的でしょう。
 

政策金利はまだ上がるのか

理論上の政策金利は、自然利子率+予想インフレ率で計算できます。このうち、自然利子率は、経済・物価に対して引締め的でも緩和的でもない景気に中立的な実質金利のことを指します。自然利子率がいくらかの判断は難しいものですが、内閣府が23年に示した潜在成長率を自然利子率に適用すれば0〜0.5%前後となります。

これに、日銀が今回(7月)の金融政策決定会合時に公表した「展望リポート」では25年のインフレ率の見通しは2.1%に引き上げられました(4月のリポートでは1.9%)。インフレ率見通しを2%として足すと理論上の政策金利は2%〜2.5%まで上昇してもおかしくないということができます。政策金利は今回の金融政策決定会合で0.25%となりましたが、理論上の政策金利よりもまだ低く、「金融緩和政策は、やや緩和が弱まったものの、依然続いている」ということになります。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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