建物・土地活用ガイド

2024/09/10

新設住宅着工戸数 2024年後半と年間の見通し

8月末に、国土交通省から2024年7月分の新設住宅着工戸数が発表されました。7月の総着工戸数は68,014戸で、前年同月比で3カ月連続のマイナスとなりました。特に持ち家(所有土地に自宅を建築する場合)は19,858戸で、32カ月連続のマイナスと減少が続いています。一方、貸家(賃貸用住宅)は31,546戸で、前年同月比プラス4.6%となりました。全体として新設住宅着工戸数は減少が続いており、とくに「持ち家」が苦戦している状況です。
今回は2024年後半の新設住宅着工戸数の見通しと年間計の見通しについて解説します。

24年1月〜7月の新設着工戸数の状況

2024年7月までの新設住宅着工戸数は、総数で見れば4月を除き前年同月比でマイナスとなっており、昨年に引き続き減少傾向が続いています。特に、「持ち家」=自宅建築は前年同月比で1月からマイナスが続いています。一方で、賃貸用住宅(貸家)は、概ね横ばいからやや増加している状況です。
2024年1月〜7月までの新設住宅着工戸数(総計)は45万9040戸で、2023年の同期間(1月〜7月)と比べてマイナス3.9%となっています。

以下、下の表を見ながら、解説します。

■2023年1月〜2024年7月までの月別新設住宅着工戸数


国土交通省「住宅着工統計」より作成

24年1〜7月の「持ち家」着工戸数の状況

2022年および2023年は年間を通じて全ての月で前年同月比がマイナスとなり、2024年も「持ち家」の新設住宅着工戸数は苦戦が予想されていましたが、実際に2024年も前年同月比でマイナスが続いています(7月までで32カ月連続の減少)。

このような大きな減少の背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、個人による「持ち家」の着工戸数の動向は、経済市況や人口動態が最も大きな要因です。1970年代には、新設住宅着工戸数の「持ち家」が60万戸を超え、バブル期が終わった1995年頃まで40万戸から50万戸を維持していました。これからもわかるように、「持ち家」の着工戸数には人口が大きな影響を与えます。また、所得の伸び(またはその見通し)や金利の動向も重要な要因ですが、近年は金利が上昇しているものの、依然として超低金利が続いており、金利の影響はそれほど大きくないかもしれません。

最近の大きな落ち込み要因として、マンションと戸建住宅の価格上昇の状況が挙げられます。2013年以降、分譲マンションの価格は2010年の平均を100とした場合、200近くまで上昇している一方で、戸建住宅の価格は120〜130程度にとどまっています。この差からも、マンション需要が旺盛であるのに対し、戸建住宅の需要はそれほど高くないことがわかります。つまり、住宅の志向が「戸建よりもマンション」にシフトしているということです。さらに、近年の住宅建築価格の上昇も大きな要因と考えられます。

国土交通省のデータでは、戸建注文住宅を「持ち家」と表記していますが、本来「持ち家」という言葉は「自己所有の住宅」を指します。過去には「持ち家」といえば「戸建住宅」であったため、この表記が用いられたのでしょう。しかし、現在では「持ち家」の定番が戸建住宅でなくなりつつあるようです。

2022年1〜7月の「貸家」着工戸数の状況

賃貸用住宅である「貸家」は、2024年1月から7月の合計で199,371戸となり、2023年の同期間と比較してプラス0.2%と微増(ほぼ横ばい)となっています。この背景には、土地所有者による土地活用としての賃貸住宅建築が続いていることに加え、投資家による賃貸住宅への投資意欲が引き続き旺盛であることが挙げられます。
また、金利は若干上昇しましたが、投資家の方々は「今後、仮に金利上昇があっても、しばらくは大幅な上昇はない、また頻繁な上昇も見込まれない」と考えているため、投資への影響は限定的であると見られます。

持ち家:24年後半の見通しと年間の見通し

2024年後半の「持ち家」新設住宅着工戸数の見通しは、建築工事費の上昇が続いていることや、土地の一次取得者にとって住宅地価格が上昇していること、さらに実質賃金の上昇が追いついていないことなどの要因から、引き続き苦戦が予想されます。このペースでは、衝撃の20万戸を下回る可能性もありますが、減少ペースが緩やかになっていることから、年間の着地は20万戸台前半になると見込まれます。

1月から7月までの月平均は17,412戸で、この平均を12倍した年間着地予想は20万8,944戸となります。また、昨年の1〜7月比(=−6.9%)を基に、2023年の年間合計(22万4,352戸)にこの減少率をかけると、20万8,829戸となります。したがって、20万8,000戸から20万9,000戸の間で着地する可能性が高いでしょう。この予測に基づけば、昨年まで2年続いた2桁のマイナス成長にはならないものの、過去約60年を遡っても最低の数値となる見込みです。

年間の見通しは金利動向に大きく依存しますが、最終的には昨年並みの34万戸台前半で着地することが予想されます。

貸家:24年後半の見通しと年間の見通し

昨年とほぼ変わらないペースで推移している「貸家」の着工戸数は、1月から7月の月平均が28,482戸です。この数字を12倍すると、34万1,784戸になります。また、1〜7月の昨年対比を基に、昨年の年間計(34万3,894戸)を掛けると、34万4,570戸となります。年内に追加の利上げが行われる可能性は低いという見方が強いため、このペースで推移すれば、年間の着地は34万4,000戸前後になると見込まれます。

新設住宅着工戸数(総計)の2024年年間の見通し

2024年の年間新設住宅着工戸数の総数についてですが、「持ち家」に加え「分譲戸建」も大幅なマイナスが続いています。1月から7月までの期間では、前年同期比でマイナス12.1%となっており、これらの戸建住宅2つが大きく総数を押し下げる要因となりそうです。一方で、貸家は微増傾向にありますが、「分譲マンション」は需要が旺盛であるものの、マンション適地不足により減少しています。これらの状況を総合すると、年間の新設住宅着工戸数は80万戸には届かず、79万戸前後になると予想しています。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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