建物・土地活用ガイド

2024/11/08

増える在留外国人と賃貸住宅需要

賃貸住宅をすでに保有しているオーナーや、賃貸住宅経営をこれから始めようと考えている方の中には、人口減少が始まっている日本において今後の賃貸住宅需要はどうなるのかを懸念される方が多いでしょう。

しかし、賃貸住宅の需要は人口の動向よりも世帯数の動向に強く影響を受けます。
特に、単身世帯は賃貸住宅に住む割合が高く、都市部ではその割合が約75%に達しています。
そのため、世帯類型の動向が賃貸住宅需要に大きな影響を与えるのです。

人口動態を見ると日本は人口減少の局面にありますが、さまざまなデータから、賃貸住宅に住む割合が高い世帯は年々増加傾向にあり、今後も増える可能性が高いと考えられます。

賃貸住宅需要が増加する可能性

近年の日本では、人口減少が進む一方で、世帯数は国勢調査によると一貫して増加しています。その背景には、単独世帯と外国人世帯の増加が大きな要因となっています。

単独世帯が増加している理由はいくつかありますが、主な要因として、人口のボリュームゾーンである65歳以上の高齢者夫婦の片方が死別するケースの増加が挙げられます。また、生涯未婚率(50歳時点未婚率)の上昇(男性28.3%、女性17.8%:2020年国勢調査)、離婚数の増加、婚姻年齢の高齢化も影響しています。

最新の国勢調査によると、単独世帯の63.7%が全国で、都市部では70〜80%が賃貸住宅に住んでいます。現在、単独世帯は全世帯の約38%を占めていますが、今後は全世帯の4割を超えると予測されています。このように、単独世帯の増加は特に都市部で賃貸住宅需要を押し上げる大きな要因となっています。

増える在日本外国人

日本の人口動態における近年の大きな変化として、日本に住む在留外国人の数が年々増加している点が挙げられます(新型コロナウイルスのまん延期を除く)。2022年末には在留外国人が初めて300万人を超え、2023年末には341万人、2024年6月末時点では359万人に達しています。この外国人の増加も、賃貸住宅需要を押し上げる要因となっています。

(図1)在留外国人数の推移(全国)

図1は、2012年からの在留外国人数の推移を示しています。これをみれば、新型コロナウイルスがまん延した2020年・21年を除けば、一貫して増加していることが分かります。

(図2)在留外国人数の推移(一都三県)

特に首都圏(一都三県)は、外国人居住者が多く、23年末では137万人、24年6月時点では145万人の外国人が住んでおり、この半年で8万人増加しています。

また、22年末時点の外国人住民の世帯は177万2890世帯、1世帯当たりの構成人員数は1.69人となっています。21年末比では23万8807世帯(15.6%)増加しています。この期間における全世帯(日本人・外国人合計)の増加数は50万5253世帯でしたので、世帯数増の半分は外国人世帯ということになります。

外国人の賃貸住宅居住比率

外国人世帯の賃貸住宅入居率に関するデータとして、少し古いものですが、前回の国勢調査(2015年)に基づくニッセイ基礎研究所の推計があります。

それによれば、外国人世帯のうち、民営の賃貸住宅に住んでいる方が約50%、公営の賃貸住宅に住んでいる方が約10%、社宅などに住んでいる方が約6%で、合計すると約2/3が何らかの賃貸住宅に住んでいることになります。一都三県に限ると、約6割弱の世帯が民営の賃貸住宅に住んでいるようです。

このデータを踏まえると、日本における世帯数増加の約半数を占める外国人世帯のうち、6割近くが賃貸住宅に住んでいるため、「外国人世帯向けの賃貸住宅需要」は今後大きく伸びる可能性が高いと考えられます。

外国人向け賃貸借契約での悩みと解決策

今後成長が確実視される外国人向け賃貸住宅ですが、言語の違いによる意思疎通の難しさから、借りる側(外国人)と貸す側(オーナーや賃貸会社)ともに「ハードルが高い」と感じているようです。

具体的には、言葉の壁や「賃貸借契約時の重要事項説明が難しい」といった点、また「連帯保証人をどうするか」「万が一の緊急時の対応をどうするか」といった問題があります。

さらに、国土交通省がHP上で公表している「大家さん・不動産業者のための外国人受け入れガイド」では、「ゴミ出しルールの遵守」「騒音トラブル」「臭いトラブル」「家賃滞納や無断居住」「原状回復に関する理解の低さ」といったトラブルが挙げられています。

しかし、これらの問題は入居前にきちんと説明を行い、入居後も適切にチェックを行うことである程度回避可能です。また、外国人入居者対応に精通している業者に依頼することも一つの方法です。

今後ますます増加すると予想される外国からの転入者により、外国人世帯は賃貸住宅需要を支える大きな要因となることが確実でしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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