我が国の基幹統計であるこの調査結果から、今回は「借家の類型別の割合」、そしてその一つである「給与住宅(いわゆる社宅など)」の動向について解説します。
借家の割合はどれくらいか
我が国の2023年10月時点(以下同様)の総住宅数は6,504万7千戸で、このうち借家(=賃貸用住宅)は1,946万2千戸、総住宅数に占める割合は35%となっています。
これは前回調査に比べて0.6ポイントの低下ですが、過去30年を振り返ると、35%〜38%の範囲で推移してきたことがわかります。
また「持ち家比率」も近年60%程度で安定しており、全体の割合はおおよそ35:60のバランスが続いています(残りは、不明など)。
持ち家志向は徐々に低下しており、最近では「土地・建物とも所有したい」と考える人は7割を切り、おおよそ65%となっています。概ね、志向と現状が一致している状況といえそうです。
借家の類型別割合
本調査では借家を、民営借家、給与住宅(いわゆる社宅など)、公営借家、公社・公団(都市再生機構等)借家の4つに分類しており、このうち圧倒的多数を占めるのは民営借家(個人や法人が一般向けに貸し出す賃貸住宅)です。
一般的に見かける賃貸住宅である民営借家は、2023年10月時点で1,568万4千戸あり、総住宅数の28.2%、借家全体の80.6%を占めています。
民営借家が総住宅数に占める割合は、ここ10年ほど28%程度で横ばいという状況推移しています。
ただし、30年前の1993年時点では、割合としては26.4%と大差ありませんが、実数は1,076万2千戸であったため、現在はその1.5倍以上となっています。
一方、公営住宅や公社・公団住宅は、実数・割合ともに減少傾向にあります。割合で見ると、公営住宅は1993年には5.0%でしたが、2023年には3.2%となっています。
1970年代に県営住宅や市営住宅といった公営の集合型賃貸住宅(団地)が全国で建設されましたが、50年が経過した現在、建て替えられた物件もある一方で、多くの住宅が取り壊されたようです。また、公社・公団住宅も1993年には2.1%でしたが、2023年には1.3%となっています。
こうした状況を見ると、「良質な住宅を所得に応じた家賃で提供する」という公的住宅の役割は終わりに近づいているのかもしれません。
その一方で、再び注目されているのが給与住宅(=社宅)です。
底打ちから再び増え始めた社宅
給与社宅は、企業や官公庁、地方行政機関が保有(または管理)する住宅のことで、一般的には社宅と呼ばれます。社員(職員)が給与の一部として住宅を利用できることから、「給与住宅」とも呼ばれています。
バブル崩壊から2000年代前半の「持たざる経営」が叫ばれる中で、企業は社宅を手放すことが増えたため、給与社宅は大きく減少しました。1993年には205万1千戸ありましたが、2018年には110万戸(全体の2.1%)にまで減少しました。
しかし、最新の2023年調査では130万2千戸(全体の2.3%)と、少し回復の兆しが見え始めています。
企業価値向上に貢献する社宅
社宅を保有することで、企業は経費計上ができ、従業員は所得税の軽減につながります。
最近、社宅が増えてきている背景には「新卒・中途採用が難しくなっていること」や「都市部での賃貸住宅賃料が上昇していること」などがあり、社員の福利厚生の一環として社宅が見直されていることが挙げられます。
社宅を新規に購入、または保有する土地に新たに建築する企業や、既存の社宅を取り壊して建て替える企業も増えているようです。
建て替えに際しては、これまで通り1棟の建物を社宅として利用する企業が大半ですが、中には一部を賃貸住宅として一般の方々に賃貸し(賃貸収益を得る)、または大地震などの非常時に対策本部として活用できるようにしている社宅もあります。
社宅を「社員利用の住宅のための不動産を保有する」として単なる福利厚生施設と捉えると費用がかかるイメージがありますが、「社宅を上手く活用する」ことで、企業価値向上に貢献する存在となりつつあると言えるでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/