建物・土地活用ガイド

2024/11/22

賃貸マンションVS分譲マンション どっちに住む?

かつて、多くの人々は「いつかは持ち家を」と考えていました。
結婚後の居住形態の変遷は「住宅すごろく」とも呼ばれ、一般的には賃貸住宅 → 分譲マンション →
一戸建て住宅という流れが一般的でした。しかし、2000年以降は「ずっと分譲マンション」に住み続ける世帯が増加しました。
さらに、近年では「ずっと賃貸住宅」に住み続ける世帯も増えてきています。

「持ち家」か「賃貸」か、の選択要因

「持ち家」に住みたいか、賃貸住宅に住みたいか、そして「持ち家」を選ぶ場合は戸建てか分譲マンションかを決める要因は、かつては主に収入に左右されていました。しかし、昨今では都市部や地方を問わず、富裕層が賃貸住宅に住む例も多くなっています。そのため、選択の要因は以下のようなものが主となっているようです。

@ 生活スタイル
A 世帯構成
B 将来の見通し(計画)
C 育ってきた環境

特に育ってきた環境は大きな影響を与えます。小さい頃から庭のある戸建て住宅で育った人は「それが当たり前」と感じやすいですし、マンション暮らしで育った人なら「マンションの方が暮らしやすい」と考える傾向があるでしょう。

雑誌などで「持ち家と賃貸、どっちがお得か」といった特集をよく見かけます。
私もこうした記事にコメントを求められることが何度もありました。

しかし、「お得」の感覚は人それぞれです。住まいは毎日の生活拠点であるため、単に「お金」だけでなく、感覚的な要素も重要な決め手になります。
この「感覚的な要素」はまさに「その人の考え方次第」であり、「人それぞれ」と言えるでしょう。

ただし、「お得」という観点で一つ明確に言えることがあります。それは、自宅で仕事をする経営者などの場合です。
このケースでは、家賃を仕事とプライベートで按分し、仕事で使用する分を会社の経費として計上することで節税効果が期待できます。
このような場合には、「賃貸の方がお得」と言えるかもしれません。

増える積極賃貸派

「賃貸住宅で十分」「賃貸住宅の方がスマートな暮らしができる」と考える「積極的賃貸派」が増えていることは、データからも明らかです。

2024年3月、国土交通省が「令和5年度土地問題に関する国民の意識調査」を公表しました(調査期間:令和5年11月22日〜令和6年2月5日)。
この調査は、土地や住宅の所有に関する多岐にわたるアンケートを毎年1回実施しており、今回で32回目となります。その中には「住宅の所有と賃借の志向」に関する意識調査も含まれています。

調査結果では、持ち家志向の低下が引き続き見られました。
「ご自身が住むための住宅の所有・賃借についてどのようにお考えですか」という質問では、「土地・建物の両方を所有したい」と答えた割合が65.0%で最も多い回答でした。

しかし、平成23年(2011年)まではこの回答率が8割を超えていたものの、以降は急速に低下。令和2年(2020年)には初めて7割を下回り、最新の2023年調査では65.0%となっています。
このペースが続けば、10年後には6割を切る可能性も指摘されています。

一方で、「借家(賃貸住宅)で構わない、または望ましい」と答えた賃貸志向の割合は17.5%に達し、昨年より2.4ポイント増加しています。
賃貸志向の増加傾向が明確になっています。

また、コロナ禍以降、「わからない」と回答する割合が急増しました。令和元年(2019年)までは一桁台だったものの、令和2年(2020年)以降は10%台から16%台で推移し、今回の調査ではやや減少しました。

この「わからない」が増えた背景としては、以下の要因が考えられます。

@ 新型コロナウイルスの影響で住まいや働き方が変化したこと
A 近年の住宅価格高騰により、「今後の住まいのあり方」を慎重に検討していること

「わからない」と答えた人の多くは、現在賃貸住宅に住んでいると推測されます。
彼らが今後「このまま賃貸」で行くのか、「いつかは所有」を目指すのか、その動向には注目したいところです。

戸建かマンションか

最後に、持ち家を選ぶ際の「戸建orマンション」という選択について触れておきます。

近年の傾向を見ると、都市部では分譲マンションを志向する方が増加しています。
実際、首都圏の中古区分マンションの価格は、2011年を100とした場合、2024年夏には200に達しています。一方で、中古戸建ての価格は130程度にとどまっています。
地方では依然として戸建て志向が一般的ですが、徐々にマンション志向の人も増えてきています。

さらに、「持ち家」の新設住宅着工戸数(≒所有土地に注文住宅を建築する件数)を見てみると、2021年末以降、約3年間にわたり前年同月比でマイナスが続いています。
このことからも、全国的に戸建て志向が減少している傾向がうかがえます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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