投資家の「期待する」利回りを示すキャップレートの動向からは、不動産投資への意欲、また不動産価格動向が伺えます。
今回は、第51回「不動産投資家調査」のデータをもとに、現状のキャップレート動向を解説します。
キャップレートの動向を見る意義
収益不動産の価値は、「どれくらいの収益性があるか」ということになりますが、この価値を不動産価格として算出する場合、将来に渡り受け取る収益を求め、それを現在価値に換算することになります。
直接還元法での収益不動産の価格算定は、現在の収益(NOI)が期間中続くものと想定して、年間収益(NOI)÷キャップレート=不動産価格 で計算されます。
個別性の強い収益不動産では割引率の目安としてキャップレート(Capitalization Rate)が用いられることが多くなっています。(注:ここではNOIベースでの不動産価格。長期保有での大型修繕、積立金など=資本的支出を加味する場合は、NCF(ネットキャッシュフロー)ベースで計算)
キャップレートとは、「不動産投資における利回りの指標」の一つで、投資家の「期待利回り」のことを指します。
キャップレートは、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって、当然変わります。
賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート
賃貸住宅の期待利回りは、全国的に最低水準が続いていますが、前回調査(2024年4月調査、5月公表)と比較すれば「横ばい」が続いている状況でした。
賃貸住宅のキャップレートが全国で最も低いとされるエリアである東京城南エリアでは、前回調査、前々回調査と同じで3.8%(調査開始以降最低値)でした。
この調査におけるワンルームタイプの想定は25〜30u、築5年未満、駅徒歩10分以内、総戸数50戸程度の1棟物件の想定です。賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低の水準がつづいており、2024年7月末の日銀金融政策決定会合で政策金利は16年ぶりに上昇しましたが、それでも賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛であり、賃貸住宅の取引価格は引き続き上昇基調にあるということになります。
新築物件においても、土地価格、建物建築価格とも、相当上昇していますが、それでも投資意欲が旺盛な状況が伺えます。
全国主要10都市では、7都市が横ばいとなりましたが、横浜・京都・広島の3都市では0.1ポイント低下しました。
期待利回りが最も低い地域の一つで、立地プレミアムのベースとされる東京城南地区(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)では、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.4%となっており、前回は3.5%でしたので、「期待する利回り」(=キャップレート)は3.8%と変わらないものの、実際の取引で想定されている利回りは低くなっています。
つまり、「なかなか、期待する利回りの物件は少なく」、「多少利回りが低くても投資している」というような状況が進んでいるということが伺えます。
また、東京城東地区(墨田区・江東区、東京・大手町まで電車などで15分圏内想定)では、期待利回りは3.9%、取引利回り3.6%でこちらも前回と同値となりました。
都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、なかなか期待するような利回り物件が少なくなっているようです。
また、「期待利回り」と実際の「取引利回り」には、0.4%(城南地域)、0.3%(城東地域)の開きがあり、「投資家の投資意欲の旺盛さ」が伺えます。
ファミリータイプの状況
一方で、賃貸住宅(1棟)のファミリータイプ(想定は広さ50u〜80u、それ以外はワンルームタイプと同じ)のキャップレートは、調査10都市のうち9都市が横ばいとなりました。
前回調査では5都市(仙台・京都・大阪・神戸・福岡)でいずれも0.1ポイント低下していましたが、ファミリータイプのキャップレートは全国的に横ばい傾向になっています。
最も低い東京・城南地区をみれば引き続き過去最低が続き、前回調査・前々回調査と同様にワンルームタイプと同じ値となっています。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%で、こちらも前回調査と同じですが、前述のようにワンルームタイプは少し下がりましたので、ファミリータイプは天井感がはっきりしてきました。
ビジネスホテルのキャップレート
今回の調査では、多くのアセットクラスでキャップレートが全国的に横ばいという結果となりました。その中で、多くの地域でキャップレートが低下したのが、宿泊特化型ホテル(いわゆるビジネスホテル)です。
ビジネスホテルはコロナ禍では、宿泊減で苦戦していましたが、2023年以降は急回復し、稼働率はかなり高く、客単価も大幅に伸びています。
そんな状況下で積極的な投資が行われています。こうした状況を反映して、調査の8都市のうち、6都市(東京・札幌・仙台・京都・大阪・那覇)でキャップレートが下がりました。
特に東京は4.2%となっており、調査開始以来最も低い値を前回調査に引き続き更新しました。
金利が上昇基調でも投資意欲は高い
「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は94%(前回は95%)と1%低下しましたが、「当面、新規投資を控える」の回答では、前回は5%でしたが今回は2%となりました。金利上昇下にありますが、依然金融緩和状態は維持されており、積極的な姿勢がうかがえます。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/