こうした状況下での利上げには賛否両論があると思われますが、利上げに踏み切った背景の一つには「日米の金利差による円安に対抗すること」があると考えられます。27日からの週の為替相場は、利上げ前と変わらない様相を呈しています。
ここでは、政策金利の上昇による不動産市況の影響について考えてみます。
金利のある世界への移行
今回の利上げは2024年7月末以来約半年ぶりです。2024年は金融政策において大きな変更がありました。
3月にはマイナス金利が解除され、政策金利の誘導目標が0%となりました。
また、7月末の日銀金融政策決定会合では政策金利が0.25%に引き上げられ、2008年12月以来約16年ぶりに「金利のある状態」となりました。
そして、2025年1月には0.5%に引き上げられました。
2024年は2回の利上げが行われましたが、2025年は年始に早々に利上げが行われ、あと1回の利上げがあるかもしれません。
金利の動向:金融緩和は続いている
2012年後半ごろから不動産市況は徐々に上向き始めましたが、2013年5月以降の大規模金融緩和政策が一気に加速するトリガーとなりました。
そのため、「低金利が現在の市況を支えている」と考える方が多く、金利が大きく上昇すればネガティブな局面になる可能性を危惧している方も多いようです。
確かに、ネガティブな報道が増えるとムードは悪化しますが、インフレ状況下だからこそ利上げが行われるわけですから、「どれくらいのインフレ率なのか、その中でどのくらいの利上げなのか」を冷静に見ておきたいものです。
政策金利の上昇は短期プライムレートの上昇、そして借入時の変動金利の上昇へとつながるのが常ですが、2024年7月の利上げの際には、店頭金利(基準金利)では多少の上昇気配が見られましたが、実際の借入金利ではそれほど大きな動きはありませんでした。
大手銀行の住宅ローンの変動金利状況を見れば、基準金利はそれまで(しばらくの間)2.475%が続いていましたが、10月以降は2.625%と0.15%上昇しました。一方、実際の借入金利は基準金利から「優遇分」を引いて0.375%〜0.4%台と大きな変化なく推移しています。では、今回の利上げにおいて各行がどのような対応を取るのでしょうか。
住宅や不動産投資、建築資金融資は金融機関にとって大きな収益源となっているため、融資件数を確保するためにも、あまり金利を上げることはせず、おそらく上昇幅は限定的でしょう。
25年以降の物価上昇の予想は大きく上方修正へ
1月、4月、7月、10月の日銀金融政策決定会合で公表される「経済・物価情勢のリポート」(展望リポート)では、消費者物価指数の上昇見通しについて記載されていますが、2025年は2.4%(前回の2024年10月分では1.9%)、2026年は2.0%(同じく1.9%)と、いずれも上方修正されました。
また、2024年度分は2024年10月の時点で2.5%の見通しとなっていましたが、結果的には2.7%となりました。この先もしばらく物価の上昇が続く見込みで、建築費の上昇も続くでしょう。
まだ、金融緩和は続いている
このように物価上昇は続く見通しであることから、2025年中にもう一度0.25%の上昇が見込まれています。
しかし、理論上の政策金利「=自然利子率+予想インフレ率」と比べればまだ金利は低い状況といえそうです。
ここでいう自然利子率とは、経済・物価に対して引締め的でも緩和的でもない景気に中立的な実質金利のことで、最近のいくつかのシンクタンクの公表数字では、−0.5〜0%の範囲となっています。
この先のインフレ率見通しをざっくり2%とすれば、理論上の政策金利は1.5%〜2.0%となります。
こう考えれば、現状はまだ「金融緩和状態」にあることが分かります。
今後の経済状況次第ですが、25年の間に現状の0.5%から0.75%への上昇可能性はあるとみておいてもいいかもしれません。
実質金利は低下している
借り入れを行う際の金利(名目金利)は多少上昇していますが、「実質金利」で見ると、以前よりも低い状況にあります。
実質金利とは、名目金利から物価変動の影響(予想インフレ率)を差し引いた金利を指します。
2021年のインフレ率は0%〜0.5%程度でしたが、この時の借入金利が例えば1%であれば、実質金利は0.5%〜1%となります。
一方、現在のインフレ率は2%台の前半ですので、1.5%で借り入れをした場合、実質金利は−0.5%となり、実質金利を比較すれば現在の方が低くなります。
このように考えれば、低金利(金融緩和の継続と実質金利の低下)の状況が2025年も続くと思われるため、建築投資は引き続き活況となるでしょう。ただし、依然として都市部での賃貸住宅建築適地や土地活用検討用地はかなり少ない状況が続いており、2024年以上に地方や郊外における収益不動産の投資(=建築)の範囲は広がると考えられます。
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吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/