2024年1月―12月の年間分の数字が揃いましたので、
ここでは年間ベースの傾向を分析しながら、2025年の見通しを考えてみましょう。
60年前の水準!2024年の新設住宅着工戸数
2024年の新設住宅着工戸数の総数は79万2070戸でした。昨年は81万9623戸であったため、マイナス3.4%となっています。
かつては毎年100万戸を超えていた新設住宅着工戸数ですが、2009年以降は100万戸を超えることなく推移しており、2024年はリーマンショック直後の2009年以来15年ぶりに80万戸台を下回る数字となりました。
ちなみに、過去を振り返ると、新設住宅着工戸数が初めて80万戸を超えたのは1965年で、それ以降80万戸を下回ったのは2009年と2024年の2年のみです。
つまり、60年前の水準ということになります。
リーマンショック後の2009年に80万戸を切った際(78.8万戸)には、前年比マイナス27.9%という大幅な減少があり、まさに「ショック」が起こった年となりました。その後、2011年から2020年の10年間の平均は90万戸を超える水準でしたが、2019年を最後に90万戸を超えた年はありません。
近年の総数の動向はジワジワと減少している状況であり、全体(総数)に関しては、多少の波はあれども中長期的にはこのままジワジワと減り続けるものと思われます。ここからは、各カテゴリー別に見ていきましょう。
■2023年1月〜2024年12月までの月別新設住宅着工戸数
(国土交通省「住宅着工統計」より作成)
図1は、23年1月から24年12月までの2年間のカテゴリー別の新設住宅着工戸数を月ごとに示したものです。
秋以降回復した「持ち家」着工戸数
自己所有の土地に自己利用の自宅建築である「持ち家」の2024年の新設着工戸数は、夏ごろまでは前年同月比でマイナスが続き、このペースでいけば20万戸を下回るような状況でした。
しかし、10月以降は前年同月比でプラスとなり、年間合計は21万8124戸、前年比マイナス2.8%となりました。2021年12月以降、2022年・2023年は年間を通じて前年同月比でマイナスが続き、2024年も9月までマイナスでしたが、約3年近くの前年同月比マイナスからようやく底を打ったような状況です。
マイナスの要因として、引き続き住宅建築費が上昇していること、土地取得費が上昇していること、中古マンションに比べて中古戸建住宅のリセールバリューが低いことなどが挙げられます。
ちなみに、「持ち家」着工戸数が20万戸を下回ることになれば、1958年(昭和33年:18.8万戸)以来となります。また、2024年の数字は1960年よりも少なく、22万戸割れは65年ぶりとなります。
一方、回復の要因としては、中古マンションがかなり高騰しており、「この値段で中古マンションを購入するのなら、注文住宅を建築しよう」という思いから、戸建てを選ぶ方が増えてきていることが考えられます。
しかし、その一方で「これまでが悪すぎたので、その反動が出始めた」という声もあり、「さすがに、まだ20万戸を下回ることはないだろう」という意見もあります。このように回復傾向にある「持ち家」着工戸数ですが、前述のプラス要因は2025年も続くそうですので、多少持ち直すと思われます。
ネガティブ要因とポジティブ要因が両立する貸家着工の動向
次に、「貸家」の着工戸数を見てみましょう。
賃貸用住宅建築である「貸家」着工戸数は、建築工事費の上昇、賃貸住宅適地の不足、金利の上昇など、ネガティブな要因が多い中で34万2025戸となりました。2023年は34万3894戸、2022年は34万5080戸でしたので、過去3年はほぼ横ばいという状況です。
土地活用としての賃貸住宅建築は、地方では一巡した感があり、都市部では適地不足という状況にありますが、その一方で、キャップレートは最低水準で横ばいが続くなど、投資家の収益賃貸住宅投資意欲は旺盛です。このため、ネガティブ要因とポジティブ要因が打ち消しあっているような状況と言えそうです。
借入金利は徐々に上がる傾向にありますが、その一方で賃料も増額傾向にあり、こちらもネガティブ要因をポジティブ要因が吸収するような状況で、2025年の貸家着工戸数も、2024年比で横ばいという状況となりそうです。
2025年の新設住宅着工戸数の見通し
最後に、2025年の新設住宅着工戸数の全般的な見通しについて述べます。
まず、「持ち家」は徐々に回復の兆しが見え始めていますが、戻る程度は限定的でしょう。リセールバリューの低さが大きな足かせとなっています。
2024年の「分譲戸建」は前年比で11.7%のマイナスとなり、2年連続で大きなマイナスが続いていますが、こちらも同様の要因が影響していると思われます。
また、「貸家」は引き続き旺盛な投資熱に支えられ、今年並みの数字を確保できると考えられますが、都市部を中心に適地の不足は続いています。
そのため、数年前から住宅賃料の上昇が都市部から徐々に郊外へも波及しており、郊外(都市部周辺地域)や地方での賃貸住宅建築が進むことが予想されます。こうしたプラスの要因もあり、金利上昇による着工戸数への影響はあまり感じられないものと思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/