建物・土地活用ガイド

2025/02/21

トランプ大統領再任で、日本の建築市場に影響はあるのか

1月20日にトランプ氏が第26代アメリカ大統領に就任(4年ぶりに再任)しました。アメリカ大統領の任期は2期8年までと決められており、最後の1年は選挙モードとなるため、実質的には3年半程度が奮闘できる期間となります。

そのため、昨年11月の当選後から就任前にもかかわらず、矢継ぎ早に政策を公言し、就任後は直ちにそれらを実行に移し始めています。
トランプ大統領の発言や政策を見てみると、そのコアにある思想は「アメリカファースト」「アメリカプライドの確保」「アメリカの復権」など、さまざまな言葉が浮かびます。

端的に言えば、「USA as NO1」をアメリカ国内、そして全世界に示すということなのでしょう。

このような政策の実現は、少なからず日本の建築業界にも影響を及ぼすものと思われます。
早速、中国やカナダ、メキシコからの輸入品に対して通常関税に加えて追加関税をかける大統領令に署名し、2月4日からスタートとなります。これはアメリカ経済を保護するためとされる政策です。アメリカにとって日本は5番目に大きな貿易相手国です。
日本に対しても同様の追加関税が課せられるとすれば、その影響は少なくないでしょう。

トランプ関税、日経平均株価に直撃

2月3日の株式市場は朝から下落ムードが続き、日経平均は1000円以上下がり、38000円台で終える展開となりました。この株価の下落は世界に広がり、各主要市場の指数も大きく下げました。
株価下落の背景には、前述の2月4日から発動されることとなった追加関税があります(発動前にカナダ・メキシコに対しては1か月施行延期を決定)。

株式市場は多少戻しましたが、まだまだ警戒感があり、2月5日になっても39000円台には戻していません。世界的に見れば戻している市場もありますが、「警戒感」が漂っているという状況です。

為替の影響

建築業界で気になることは、輸入資材の価格です。
ご承知のように、我が国における建築資材の多くは海外依存度が高く、2021年から2022年にかけて「ウッドショック」と呼ばれる木材資材の急高騰がありました。そこで気になるのが、輸入元のインフレ率と為替相場です。追加関税をかけると、この度の中国のように報復的に関税をかけるのが一般的です。

もちろん、追加関税は自国での物価上昇を招きます。
そのため、この追加関税が他国に広がり、また長期にわたると、確実にアメリカ国内で物価上昇が起こるでしょう。

つまり、この「追加関税」が広がり、対抗策としての「報復関税」が広がると、該当国ではインフレが起こることになります。
インフレ率が上昇すれば、金利も上がります。

この先、アメリカで金利が上昇すれば、為替は円安方向に圧力がかかることになります。
この時の日銀の対応次第ですが、流れとして今後ドル円相場は円安基調となる可能性が高まっています。

そうなれば、建築資材や原料などは世界各国から輸入されますが、ドルベースでのやり取りが主となりますので、ドル円相場は大きな影響を持ちます。
もちろん、円安傾向になれば、建築資材の費用は上昇する可能性が高まります。


 

原油価格は下がる?

我が国の建築業界に影響を与えるトランプ大統領の政策の一つが「原油増産」です。

原油を含めたエネルギー改革は、トランプ大統領が最重要政策と位置付けているものです。
詳細はここでは省きますが、「掘って、掘って、掘りまくれ」といった発言をしたことがあるように、原油については国内での増産やOPECへの増産圧力をかけています。

これは言うまでもなく、供給が増えるということですから、原油価格は下がる方向に向かいます。日本におけるガソリン価格は、原材料としての原油価格と為替の2つが価格決定の大きな要因ですが、原油価格は下がる傾向になりそうです。

日本における建築資材費は上がるのか?

この状況を考えると、@現地インフレによる調達価格の上昇、A円安、B輸送コストの増加、Cエネルギー価格の上昇といった4つの要因があったウッドショックの時ほどの影響はないものの、現時点では@とAが起こる可能性が高まっています。
需給のバランスが変わらなければ、建築資材費が上昇する可能性が高いです。

さらに、「これまでとは異なる政策」を導入すると、市場に「揺れ」が生じ、その揺れが広がることで「ムード」が形成されます。結果として、何らかの形で「ショック」が発生する可能性もあります。

この先の見通しが読みにくい状況となってきました。これから建築をお考えの方は、早め早めの動きがよいと思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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