建物・土地活用ガイド

2025/03/21

企業のライフサイクルと賃貸用不動産

企業は永続性を求められる一方で、産業やビジネスのライフサイクルという抗えない事象が存在し、時流によって厳しい局面を迎えることもあります。

近年、高齢の経営者からは「後継者がいない」「ご子息が後を継がない」といった理由で、事業承継がうまくいかない事例が多発しています。

その結果、やむを得ず廃業したり、企業を売却したりするケースが増加しています。

その一方で、既存事業を止めて、保有する土地に賃貸用物件を建築して、賃貸業に転換する例も多くみられます。今回は、企業のライフサイクルと不動産戦略について解説しましょう。

産業の成長サイクル

ビジネスのライフサイクル、すなわち成長サイクルは大まかに4つのフェーズに分けられます。
「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」と呼ばれるこれらのフェーズです。

現在は華やかなビジネスでも、数十年後にはそのビジネスがすっかり色あせ、業界の上位企業のみが大きな収益を上げ、多くの同業他社は厳しい状況に置かれることがよくあります。

ビジネスは日々進化しており、かつては成長期から成熟期にかけての期間が20〜30年間存在しましたが、インターネットなどで情報が容易に入手できる現代では、その期間が10〜15年に半減しているとも言われています。

下記の図は、一般的な産業の成長サイクルを図にしたものです。

■産業の成長サイクル

簡単に概要を説明すれば以下のようになります(あくまでも一般論で、当てはまらない企業や業種もあります)

1)導入期
第一のフェーズはビジネスの勃興期であり、いくつかの小さな企業が新しいビジネスを生み出します。

このフェーズでは、ほとんどの会社が創業期にあり、事業はまだ確立されていません。
そのため、いかにスピード感を持って企業を成長期へと導くかが成功のカギとなります。

このフェーズにある企業は、いわゆる“ベンチャー”と呼ばれ、金融機関や投資家から積極的に資金を調達し、事業の確立を目指す段階にあります。

また、引き合いを頼りに事業を徐々に拡大し、企業や商品の認知を広げていきます。

2)成長期
新規顧客がリピーターとなり、産業全体の売上規模が最も順調に伸びていく時期です。
企業は、新規顧客や既存顧客を競合に奪われないよう、シェアの最大化を図る必要があります。
そのため、人材確保などが重要な課題となります。

また、企業は管理体制の強化や、資金ショートを防ぐためのキャッシュフローの見直しが求められる時期でもあります。

3)成熟期
産業が成熟してくる時期ですが、その分競合も増加します。
この時期、企業は売上が安定するか、または緩やかに下降していく傾向があります。

競合他社との差別化や、新たなビジネスモデルによる新規顧客の開拓、既存顧客の維持など、事業計画の見直しが求められます

また、事業継承の準備が必要な時期でもあります。この頃までに蓄えた資産を不動産などに転換する動きが見られます。

4)成長期
時流により需要が落ち込み、産業が衰退してくる時期です。
この段階では、企業はビジネスモデルの転換を行う必要が出てきます。

うまくいかない企業の中には、赤字事業の撤退や売却などを検討する必要がある場合もあります。

このように、産業には成長のサイクルがあります。

事業会社が賃貸用物件を所有するメリット

図で示したように、一定の年数が経過すれば、産業は徐々に安定期(あるいは衰退期)を迎えます。

社会人として20〜30年働けば、こうしたことに気づく方も多いでしょう。

かつての人気業種は、いつかは人気を失い、新たな産業が生まれ、古い産業は衰退していきます。

安定期から衰退期に差し掛かると、企業は新たな事業領域に転換し、永続化を図ろうとします。
しかし、その転換は容易ではなく、また転換には一定の期間がかかります。

このような状況において、何らかの賃貸用不動産を保有しておけば、転換を図る間に不動産収入(賃料収入)が得られます。

この収入は、一定程度セーフティーネットとしての役割を果たします。
これは、大企業や中小企業にかかわらず、大きな役割を果たします。

また、冒頭に述べたように、創業者の年齢が高齢化し、後進に託そうとしても、なかなか後継者が見つからない例が多いようです。

しかし、その際に賃貸用の収益不動産を保有して収入を確保しておけば、「事業をたたんでもいい」という選択肢を取ることができます。

このように、現在のような好景気で企業の収益性が高い時に賃貸用の収益不動産を所有しておけば、「いざ」という時に役立つものとなります。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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