空室が増加傾向にある中小規模のオフィスビル
ザイマックス総研の研究調査によると2017年6月期の東京23区オフィスマーケットは、空室率が3.66%と低水準で推移しています。しかし、中小規模のオフィスビルのオーナーは安穏としていられないのが現状です。巨額の投資を行って最新の建築技法や設備体制を導入した大型のビルであれば、長年にわたりテナントの人気を保つことも不可能ではありません。しかし、どこにでもあるような中小規模のオフィスビルは、移転需要があるといえ対策を講じなければ年々空室が増加するでしょう。
オフィスビル市場は同じ不動産でも住宅より値動きが激しいのが特徴であり、景気などに応じて乱高下します。特に駅から距離のある新しく開発されたオフィス街の場合は、古くから定着しているオフィス街よりも価格変動が激しく、さらにビルによる価格差が大きくなる傾向にあります。そのため、新興のオフィス街においては周辺の値動きが激しく相場がつかみづらいため、自身の所有するオフィスビルが周囲と比べてどの立ち位置にいるのかを正確に把握する必要があるでしょう。
また、中小規模の場合は自社ビルの現状把握は当然のこと、その他にも市場全体の動向、競合ビルの条件・動きなども事細かにチェックすることが大切です。競合となるオフィスビルの空室が少ないにもかかわらず、自社ビルの空室率が高いなどのケースは必ず何かしらの要因があります。何もしなければ建物価値はその後も下がり続けるので、きちんと現状を分析したうえで家賃の値下げやリニューアルなど、即座に今後の対策を検討することが重要になります。
建物価値の下落に備えて把握すべき市場動向
建物はどんなにメンテナンスが行き届いていても老朽化する運命には抗えず、外観が古びてしまい、内部の設備は時代遅れになっていくものです。いつまでも建物価値を高く維持することはできないため、中小規模のビルが空室率上昇を防ぎ、今後生き残っていくためには常に市場動向を確認してニーズにあった対策を行う必要があります。
オフィスビル市場においては、まず移転先を「近い」(駅からの近さ)、「新しい」(築年数)、「広い」(フロアの広さ)というキーワードで検索するケースが多く、前述したように移転需要のある現状でも築年数が古い中小規模のオフィスビルの苦戦は必至です。そのため、駅から近く、新しく、広いテナントに人気が集中するという明暗が分かれた状態になっています。また、オフィスビルに対する防災ニーズの高まりも顕著なだけに、築年数の古い中小規模のビルは市場において優位性を確保できないでしょう。
そして、追い打ちをかけるように大型オフィスの募集賃料は下がり傾向にあります。こうした市場動向もあり、ますますオフィスビルにおいて優劣の二極化が進み、需要の偏りは続くことが予想されます。こうした厳しい状況下において中小規模のオフィスビルが今後生き残るためには、単なる家賃の値下げや建物のリニューアルに留まらない抜本的な改革を行うことが不可欠です。
シェアオフィス・レンタルスペースなどの柔軟な発想も必要
オフィスビル経営において空室は死活問題ですが、その事実をあまり重く受け止めていないオーナーも多いようです。当然ながら、「空室率増加=賃貸収入減少」に直結するのでその影響を再認識したうえで、いかに空室を防ぐかに頭を働かせる必要があるでしょう。自身で対応できない場合は、賃貸借取引の仲介から店舗・事務所の立地動向調査、テナントの構成や賃貸条件の設計・調整など収益性確保のサポートが受けられる「リーシング」に頼るのも1つの手段です。
リーシングとは、賃貸の不動産物件のテナントづけを行うなど仲介業務を請け負うサービスを意味します。中小規模のオフィスビルの苦境が続いていることもあり、もはやリーシングは当たり前になりつつあります。専門的な視点でビルの特性を分析して、ターゲットを探し出して適切な対策に講じることが不可欠です。また、ターゲットを変えて空室をレンタルオフィス、レンタルスペース、貸し会議室として活用するという選択肢もあります。大規模なリノベーションは不要なため、少ない初期費用で別事業を展開できることもあり、オフィスの空間運用の可能性を広げられるでしょう。
オフィスビル経営において建物すべてを自社利用する場合を除けば、いかにテナントの空きを出さないかが収益をあげるうえでのポイントとなります。特に中小規模のオフィスビルにおいては空室対策が急務です。条件の合うテナントをひたすら探すだけではなく、シェアオフィス・レンタルスペースなどの新たな手法の活用など柔軟な発想がこれまで以上に求められています。さまざまな可能性を探りながら、新しい需要を掘り起こしてみてはいかがでしょうか。