建物・土地活用ガイド

2018/02/12

工場建築の際に検討すべき住民説明会の開催

企業の生産の拠点であり、世の中に流通する製品を量産するためには欠かせない工場ですが、騒音や異臭などで近隣からクレームを受けやすいという側面もあります。人里離れた山奥であれば地域でトラブルに発展するケースは少ないかもしれませんが、都市部に工場を建てる場合は近隣住民と適切な距離感を保つことが非常に重要になります。企業側と住民側で工場に対しての共通理解を深めるためにも必要になるのが住民説明会の開催です。

何かとクレームにつながりやすい工場建築

“モノづくり”に長けた国である日本においては、産業の発展が国力のアップに大きく寄与したことは誰もが知るところです。そのため、高度成長期には国内に数多くの工場が建てられました。国の発展に多大なる貢献を果たしてきた工場ですが、同時にトラブルが発生したこともまた事実です。1960年代後半の高度成長期の裏側では、水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくの四大公害訴訟に代表される社会問題が続出しました。

製品を生産する過程で多くのエネルギーを使い、また多くの廃棄物を出す工場は、稼働中はもちろんのこと、大規模な施設であれば建築時でも近隣住民からクレームを受けるケースは少なくありません。特に自治体に寄せられる騒音や悪臭に関する苦情は年々増加傾向にあり、こういったクレームを放置して建築工事や工場の運用を続けると、周辺住民との関係悪化による損害賠償や立ち退きを求めるトラブルに発展することも十分にあり得る話です。

そのため、工場を運営する企業では、近隣住民とのトラブルを避けるためにも最大限の配慮が必要になります。工場の建築や稼働に際して、近隣にどの程度の迷惑がかかる恐れがあるのかをあらかじめ想定し、それをきちんと事前説明することがトラブル発生を未然に回避するための最善策となります。だからこそ工場を建てることが決まった際に必ず「住民説明会」の開催を徹底すべきでしょう。

住民説明会で重視すべきなのは相互理解

これから起こりうる工事中や完成後のトラブルについて、事前に説明があったのであれば住民としても納得の度合いが変わってくるはずです。さらには工場建築前に住民説明会をすることによって、工場を所有する企業の責任者、施工会社の担当者らと住民が顔を合わせる機会にもなります。住民からすれば外部から来た人間に“地元を荒らされる”という意識がどうしても芽生えがちなので、まずは挨拶からスタートし、面と向かって今後の状況について説明を行うことは不可欠でしょう。

住民説明会で伝えておくべきは、工事現場や工場の生産活動における騒音、振動、悪臭などの予測値になります。あらかじめ具体的な数値を示したうえでご迷惑をかけることを伝えておけば、住民の理解は得られやすくなります。特に騒音は騒音規制法で定めた数値が存在するため、それをきちんと説明したうえで工事現場に騒音表示器を設置しておけば、「音がうるさい」というクレームも少なくできるでしょう。

企業側があらかじめ理解しておくことは、騒音を出すことが悪いのではなく、住民の理解が得られていない範囲で迷惑がかかることがトラブルに発展する可能性が高いことです。もっとも重要なのは企業側と住民側の相互理解であり、その関係性がうまく構築されていれば多くのことは住民としても目をつぶることができるのではないでしょうか。

求められる受忍限度を意識した対応

事前に住民説明会を開催し、入念な準備をしたうえで工場の建築に臨むべきですが、どんなに手厚く対応してもクレームがつながることはあります。しかし、住民側の意見をすべて鵜呑みにしていては工事を完遂することも難しくなる可能性があるので、騒音、振動、悪臭などの諸問題においては近隣に与える影響や不利益が「受忍限度」を超えた時のみに慰謝料などの対象になることをあらかじめ理解しておきましょう。

受忍限度とは端的に言うと、“法律上の許容範囲”です。社会共同生活を営むうえで一定限度の不利益はお互い様として受忍すべきであり、その限度を超えた侵害を被ったときにその行為は違法性を帯び不法行為責任を負うことになっています。そのため、住民の受忍限度を意識することが大切になります。その範囲としては自身が住むエリアで度を超えた騒音・振動・悪臭があった場合を思い浮かべてください。自身の身になって許容範囲を考えることで一般常識的な限度が見えてくるはずです。

工場のような大型の生産拠点を建てる際には、近隣に住んでいる住民への方への影響を丁寧に伝える説明会の開催が不可欠です。そして、説明をしたうえでクレームが来た場合には法定基準だけで判断するのではなく受忍限度を意識しましょう。工事や運用を行ううえで住民から嫌われることはデメリットでしかないため、住民の方の気持ちに配慮した心ある行動を心がけるようにしましょう。

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