押さえておきたいバリューエンジニアリング
近年、製造や建築などの業界ではしきりにバリューエンジニアリングという言葉が使用されています。バリューエンジニアリング(Value Engineering/VE)とは、製品やサービスの「価値」を果たすべき「機能」とかかる「コスト」の関係で考え、価値を最大化するために努力することを意味します。非常に概念を理解するのが難しいところですが、図式にすると「価値=機能÷コスト」のようにシンプルです。つまり、端的に言えば「価値向上のために機能性を上げたり、コストを下げたりすること」になります。
「わからないことはすぐ検索」が当たり前の情報化社会においては、誰でも新しいサービスやテクノロジーについての情報を簡単に得ることができます。そのため、消費者も本当に価値のあるものをより厳密に選別をする傾向にあるため、単に安価なものを提供するのではなく、ニーズに合った価値を追求し続ける必要があります。製品やサービスの価値を高めるためにも常に現状に満足することなく、より高みを目指すことが求められる時代になってきたと言えるでしょう。
そんな時代においてバリューエンジニアリングは、“価値向上のための技術”であり、業界問わず時代を牽引する企業においては欠かせない管理技術になります。高品質だから高価であるという理屈はわかりますが、高品質でも安価で購入できるとしたら、消費者は間違いなく値段が安い方に流れるでしょう。そのため、どの企業にとってもバリューエンジニアリングという概念を理解し、努力し続けることが重要になってきています。
建築に求められる積極的なVE提案
製品やサービスの持つ価値を機能・品質とコストの両面で総合的に優れたものになるように追求するバリューエンジニアリング。そうした取り組みは製品やサービスだけに留まらず、建物――つまり建築業においても積極的なVE(バリューエンジニアリング)提案が求められています。マンションやビルなどの建築は、綿密な計画によって成り立ちますが、すべてが完璧で無駄・過剰がないとは言いきれません。
そのため、建築関連においては設計段階の「設計VE」、工事入札段階の「入札時VE」、施工段階の「契約後VE」という3段階においてVE提案を行うことが主流です。各工程でできるうる限りの無駄・過剰を取り除き、反対に不足を補うことで同額のコストでも機能・品質の向上に努めます。国土交通省が発表した「新築工事における 設計時VEの取り組みについて」によると、実施時期が早い段階ほどVE効果が高いとされる調査結果が出ています。
設計は主に建築主と設計者の意向に影響される面もあるだけに、客観的な視点を加えることで機能・品質の向上など改善の余地が見込めるでしょう。詳細設計が完成後の抜本的な見直しは大きな手戻りを要するものであり、工期の遅れなども懸念されます。そのため、プロジェクトの初期段階である「設計VE」の検討の実施がもっとも効果的です。
初期費用に加えライフサイクルコストの削減も
VE提案という言葉を単なる原価削減の提案や建築コストの削減と捉えている人もいますが、建物のオーナーにとって価値の高い建物を建築することであることを改めて認識しましょう。オーナーにとっての価値は、建物の建築費に当たるイニシャルコスト(初期費用)の安さだけに留まりません。その後の建物運用におけるランニングコスト(維持費用)、または老朽化した際に取り壊す際の解体費用などもすべて含めたライフサイクルコストまできちんと考えることが不可欠です。
いくら初期費用を安く抑えられたからといって、その後の維持費が莫大にかかるのであれば、それは真に価値の高い建物とは言えません。そして、その提案も有益なVE提案ではないでしょう。建物はただ造ることがゴールではなく、その後の事業展開やライフスタイルが円滑で有意義であることがもっとも重要です。真に価値のある建物にするためには、オーナーも建築会社もバリューエンジニアリングの概念を常に意識することが大切だと言えるでしょう。