今回は、路線価の概要について解説した後、21年分路線価の分析を行います。
4つの土地価格
土地の価格は、「公示地価」、「路線価(相続税路線価)」「固定資産税評価額(固定資産税路線価)」「基準地価=都道府県地価」の4つの公的に価格づけされるものと、実際の取引価格である「実勢価格」があります。
公的な4つの地価のうち、最もポピュラーなものは、3月下旬に公表される「公示地価」でしょう。公示地価は、多くの方になじみがあると思います。正確に言えば、「地価公示法」に基づき、国土交通省が(より正確には、国土交通省の審議会の1つである土地鑑定委員会が)2人以上の不動産鑑定士に鑑定評価を取り、毎年1月1日時点における標準地の正常価格を3月に公表しているものです。例えば、立ち退きといった土地の収用の際の土地価格や土地取引の規準となるものです。
路線価とは
今回深掘りする「路線価」は、国税庁が発表する「税」を算出する際の基準となる土地価格で、価格時点は、公示地価と同じく1月1日時点となります。
路線価は、細かく言えば、「相続税路線価」と「固定資産税路線価」に分かれます。土地活用や賃貸住宅経営をされている方にはとても関心の高い相続税や贈与税、また不動産を所有すれば納める必要のある固定資産税の算定基準となるものです。公示地価をもとに算出されており、「相続税路線価」は概ね公示地価の80%(税務署が算定)、「固定資産税路線価」(市町村が算定)は概ね70%が目安とされています。この度(7月1日)発表された路線価は「相続税路線価」で、「固定資産税路線価」は3月1日(3年ごとの改定。つまり3年ごとの発表)に発表されます。メディアの報道などで、一般的に「路線価」といえば、7月に発表される「相続税路線価」を指すことが多いようです。
先に挙げたように、公示地価は土地取引の指標となるのですが、すべてのエリアを網羅しているわけではありません。国土交通省が全国に定めた地点(標準地)を対象にしており、つまり、代表的な地点のみの価格です。一方で、路線価は、計算式を用いれば日本の多くのエリアをカバーしていることになり、調べたい場所の路線価をピンポイントで知ることが出来ます。
逆に言えば、路線価は公示地価の8割が目安となっているので、路線価図から不動産の所在する場所を特定し、前面道路に書かれた価額を80%で割戻すと、おおまかな公示地価を試算することが出来ます。
相続などで重要な指標となる路線価
今回7月発表の路線価(相続税路線価)は、2021年1月1日以降に発生した相続や贈与において、相続税額や贈与税額算定に影響する重要な数字となります。年単位で路線価等は変わりますが、こうした税の算定基準となるのは、発生した時点の数字で、申告した時点の数字ではありませんので、注意が必要です。また、路線価は、特定条件や奥行距離等による補正、その他その計算方式はかなり複雑ですので、専門家に相談するといいでしょう。
路線価は、全国にある宅地、田、畑、山林を対象として定められています。ここでいう、宅地とは、住宅地だけでなく、商業施設やビル、工場など、その用途にかかわらず、「建物の敷地となる土地」をさします。
また、借地に対しては、固定資産税はかかりません(借地に建つ建築物にはかかります)が、借地権を相続や贈与する場合などに、相続税や贈与税がかかります。そのため、借地にも路線価が定められており、「借地権割合」により算出します。路線価に対して一定のパーセントを掛けて算出するわけです。この割合は、A~Gまでの記号で示され、A=90%で以下10%ずつ減っていきます。
ここからは21年分の路線価について見てみましょう。
全国平均では6年ぶりの下落
21年分の路線価(標準宅地)の全国平均は前年比0・5%減と6年ぶりの下落となりました。新型コロナウイルスの感染拡大による影響が大きく、とくに都市部商業地では、オフィスや商業系テナントの需要減少等が要因と思われます。都道府県別でみると、東京都や大阪府は7年ぶりの下落で、全国では39都府県で下落、上昇は7道県にとなっています。前年は21都道府県で上昇していましたので、大幅に減ったことになります。
詳細は、下記サイトを検索すれば、皆さまが所有されている土地の路線価が検索できます。
https://www.rosenka.nta.go.jp/
ご参考ください。
昨年同様、修正はあるのか?
さて、昨年、話題となった路線価の期間中(年)の修正ですが、今年も可能性があるかもしれないことを、国税庁が示唆しています。
昨年、国税庁は、同年7〜12月分について、コロナウイルスによる影響で20%を超える大幅な地価下落が見られたとして、大阪市の中心部繁華街など13地点で減額修正を行いました。21年分に関しても、地価変動等に柔軟に対応できるよう動向調査を実施するようです。
昨年の路線価の価格時点(2020年1月1日時点)以後に、新型コロナウイルスの影響が広がりました。つまり昨年分はコロナショックの影響がなかった時点の路線価だったわけです。そのため、7月以降分の減額修正が一部地点で行われました。
しかし、今年の路線価は当然ながら新型コロナウイルスの影響が強く出ています。そのため、おそらく減額修正はないものと思われます。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
疑問に思うこと、お困りごとなど、まずはお気軽にご相談ください