建物・土地活用ガイド

2021/11/19

土地オーナーの為の税の基礎知識「不動産所得と損益通算について」

毎年、10月半ば頃になると「生命保険控除」が届き、「そろそろ、源泉徴収や確定申告が近づいてきたな」と多くの方が思うことでしょう。ちょうど日が沈む時間が早くなり、「今年もあと少し」というムードが漂い始めるころでもあります。
ご存知のとおり、不動産所得など給与所得以外の所得がある方は、毎年3月中頃までに確定申告の必要があります。そのため、この時期に慌てて書類をそろえる必要はないのですが、徐々に準備を始めたいところです。
土地オーナーのための税の基礎知識シリーズ第1回目は、不動産所得についてお伝えします。

損益通算制度

所有する土地に賃貸物件を建築しそれを貸す「賃貸経営」は、その名の通り「経営」を行うことです。そのため、期間内(個人オーナーの場合は、1年単位。1〜12月です。企業の場合、1決算期単位)での収支状況を正確に把握し、収益を算出し不動産所得(個人による不動産賃貸事業における所得は、事業所得とはいわず不動産所得と呼ばれます)を確定させ、給与所得と合算して計算し(プラスの場合もあればマイナスの場合もあります)、それに応じた税金を納めることになります。
いま述べたように不動産所得と給与所得等を合算しますので、不動産所得がマイナスとなった時には給与所得だけの場合に比べ税が軽くなることがあります。
こうした形で各所得のプラスとマイナスをぶつけることができる制度を損益通算と言います。損益通算の対象となる所得は、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得のみです。ちなみに、株式や配当などに関するものは分離課税となり損益通算はできません。(その他、細かい補則がありますが、ここでは省略します。詳細をお知りになりたい方は、国税庁のホームページなどを参考ください。)

不動産所得の算出

不動産所得は収入−費用で算出されます。
企業の損益計画書(P/L)でいえば、売上−原価=利益
   利益−販管費(経費)=営業利益 となります。大雑把な言い方をすれば、この「営業利益」が不動産所得ということになります。
企業経営では、収入と必要経費を予測しておくことが重要ですが、不動産所得において、「賢く税を納める」ためには、賃貸経営において、予測=事業計画をしっかりと立てておくことが重要になります。
ここからは、売上(=収入)と販管費(=経費)の計上の仕組みについて解説します。

収入の計上について

不動産所得は、収入から必要経費を引いたもの、つまり差分(利益)が所得となります。
以下は、賃貸住宅の例としてお伝えします。

収入については、月単位の賃料(年換算では×12)に加え、礼金・更新費用、駐車場などがあればその賃料の年間合計となります。ここでの、年単位の収益算出において重要な事として、〆の月の収入については入金ベースではなく、発生ベースで家賃計上を行うということです。ある年の年末12月分の賃料が例えば1月5日に振り込まれたとしてもそれは12月分ですから、12月分として計上するわけです。未収金があっても同様です(貸し倒れ引き当てなどに入れる場合もあります)。

一方、礼金や更新費用は、契約した年次の収入として算入します。しかし、敷金は預かり金ですので事実上の収入には収益計算の時は算入しません。ただし、敷き引き(一定額は退去時に差し引きます)という契約がある場合は、その分は契約した年次に収入に含めることができます。

経費について

経費は、該当物件の賃貸経営がスタートした際にだけかかるものと、ずっとかかるものがあります。
スタート時にかかるものは、登記費用(登録免許税)や不動産取得税、抵当権設定費用といった税にまつわる費用や物件取得のために仲介会社に依頼した場合等では仲介手数料などがあります。
継続してかかる費用としては、固定資産税・都市計画税(土地分+建物分)、管理委託費用、修繕関連費、保険料、ローン利息、そして建物の減価償却費用などです。また、入居者斡旋にともなう仲介手数料は、その都度かかります(毎年かどうかは入退去の頻度しだいです)。これらの中には、年1回支払うものと毎月支払うものがあります。

経費は、〆の月(個人オーナーの場合は12月末になります。)までにその事が確定しており、業務が行われていれば、その年に計上することになります。修繕工事などで、工事が進行中の場合は、支払いが行われていない場合は、未払い費用として計上することになります。

利益の確定

こうして収入と経費の計上を行うと、利益が確定します。個人の場合、その他の収入(例えば、給与収入など)と合算を行います。さきほど述べた損益通算です。そこから各種控除がおこなわれ、税の算定基準となる「総合課税所得」が定まり、税を納める(あるいは還付される)ことになります。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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