2022年分の地価公示は3月22日に発表されました。今年の地価公示では、コロナウイルスの経済に与える影響が大分少なくなっている中で「新型コロナウイルスの影響からどれくらい回復しているのか?」が注目されました。
注目の2022年分の地価公示を分析してみましょう。
地価の回復が鮮明に!
2022年の地価は、全国平均では全用途(全用途=住宅地・商業地・工業地)平均で+0.6%、住宅地で+0.5%、商業地で+0.4%といずれもプラスとなりました。昨年(2021年)はすべてマイナスでしたので、2年ぶりということになります。2020年までの5年連続のプラスから一転、6年ぶりにマイナスとなった昨年から1年でプラス圏に戻ったことになります。2021年の地価公示では、新型コロナウイルスの影響が大きく出て三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)はいずれもマイナス、地方圏全体でもマイナスとなっていましたが、三大都市圏すべて、地方圏全体も1年でプラス圏に戻りました。
全国の標準地(=調査地)は26000(うち7地点は原発事故の影響で休止中)で、そのうち36%が下落地点(昨年は58%)、横ばいが21%(昨年は22%)で、上昇地点は43%(昨年は19%)となり、昨年から大きく回復していました.。
昨年は新型コロナウイルスの影響が色濃く見られましたが、2022年の地価公示では、完全回復とまではいかないものの、回復傾向になってきました。コロナショックからの景気回復基調にあること、低金利が引き続き続いていることなどから住宅地では住宅需要が高まり、商業地では店舗用地、マンション用地などの需要が高まっていることが回復の要因と考えられます。しかし、一方でインバウンド需要の回復が遅れていることから、一部商業地では依然マイナスが続いています.
3大都市圏の状況
3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)では、全用途は+0.7%(前年は−0.7%)、住宅地は+0.5%(前年は−0.6%)、商業地は+0.7%(前年は−1.3%)となりました。3大都市圏全体ではいずれも昨年のマイナスからプラスに転じました。
住宅地では3大都市すべてが2年ぶりにプラスに転じ、商業地においては東京圏・名古屋圏はプラスに、大阪圏は横ばい(±0)となりました。大都市部の住宅地では、中心部の希少性の高いエリアや利便性の高いエリアで上昇が続いていますが、下記グラフのとおり、コロナショック前の2020年に戻るのは来年(2023年分)以降になりそうです。商業地ではマイナスからプラスには転じましたが、国内外の観光・ビジネス訪問(出張など)需要の回復が遅れていることもあり、まだ完全回復には至っていません。
3大都市圏+地方圏 地価公示変動率の推移(住宅地)
(国土交通省「地価公示」より作成)
3大都市圏+地方圏 地価公示変動率の推移(商業地)
(国土交通省「地価公示」より作成)
※地方圏(地方四市)とは、北海道札幌市、宮城県仙台市、広島県広島市、福岡県福岡市をいう。 地方圏:地方圏とは、三大都市圏を除く地域をいう。
東京圏の状況
東京圏は全用途平均で+0.8%(前年は−0.5%)、住宅地は+0.6%(前年は−0.5%)、商業地は+0.7%(前年は−1.0%)となりました。上昇はいずれも2年ぶりとなります。住宅地において23区内は全て上昇に転じ、特に港区や目黒区では上昇幅が拡大しました。
商業地は23区のうち、20区が上昇に転じましたが、中央区銀座や新宿の中心部では依然マイナスとなっています。東京圏を都県別にみれば、1都3県すべてが住宅地・商業地ともプラスになりました(千葉県は昨年も住宅地・商業地ともプラス)。
回復に差が出た大阪圏の状況
大阪圏は全用途平均で+0.2%(前年は−0.7%)、住宅地は+0.1%(前年は−0.5%)、商業地は±0%(前年は−1.8%)となりました。
住宅地では、大阪市内中心部の一等立地にタワーマンションが建つなどマンション価格上昇が続いており、プラス圏内になりました。2020年の大阪圏(大阪・京都・神戸などが中心)の住宅地では、3大都市圏での伸び率は最低(0.4%)だったものの、関西エリアはインバウンド観光客に人気のエリアという背景から、商業地は6.9%のプラスと3大都市圏で最高の伸びを示していました。しかし、2021年は大きく下げていました。
商業地では、2020年+6.9%(3大都市圏で最大の伸び)、2021年−1.8%(3大都市圏最大の落込み)と大きく変動した大阪圏の商業地地価でしたが、今年も3大都市圏で最も低調な伸び(±0)となりました。
その大阪圏で目立つのは、大阪市が引き続きマイナス圏内にあることです。前年の−4.4%からは改善したものの−1.1%に留まりました。逆に京都市は前年の−2.1%から+0.7%に改善しました。観光需要が強い京都市ではインバウンド需要はまだ見込めないものの国内観光は回復してきています。新規ホテル開業も以前のように増えこの先も伸びる可能性が高く、大阪市とは明暗を分けた形となりました。大阪市の商業地の地価は、国内観光客とともにインバウンド観光客が戻るまで、あとしばらく厳しい状況が続くものと思われます。
地方圏の状況
次に地方圏の様子を見てみましょう。
地方中核4市(札幌・仙台・広島・福岡)では、全用途平均は+5.8%(前年は+2.9%)、住宅地は+5.8%(前年は+2.7%)、商業地は+5.7%(前年は+3.1%)となり、いずれも昨年に引き続きプラスになりました。住宅地は新型コロナウイルスの影響が出る前の水準に戻りましたが、商業地においては2020年に+11%を超えており、そこまでは戻していません。目立つのは札幌市の住宅地の上昇で+9.3%。札幌市市内にある305地点のすべてが上昇(一部は横ばい)となっています。
地方圏全体では、全用途平均は+0.5%(前年は−0.3%)、住宅地は+0.5%(前年は−0.3%)、商業地は+0.2%(前年は−0.5%)となり、いずれも2年ぶりにプラスに戻りました。
まとめ
9月に発表される都道府県地価(価格時点は7月)と重なる地点(同一地点)の地価を見ると、2021年前半の上昇率よりも後半(7月以降)の上昇率が高いところがほとんどでした。つまり、今年の上昇分は2021年後半の寄与が高かったということになります。地価は2021年の後半以降に大きく回復し、現在も右肩上がりの状態にあると言えそうです。
金利の動向、恒常的なインフレの可能性などによりぶれる可能性もありますが、現在の状況だけで見れば、2023年の地価公示は今年以上の伸びを示すものと思われます。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
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