建物・土地活用ガイド

2018/02/26

病院・高齢者施設における設計工夫による感染対策

多くの患者さんが集い、ケガや病気を治すために治療に取り組む場所である病院。そうした医療施設の特質ゆえに院内には多くの菌が存在し、常に何らかの病気に感染するリスクがあることを忘れてはいけません。感染対策には医療従事者を中心に各人が意識して取り組む必要がありますが、個人任せにしてはいけません。万全を期すためにも、建築・設備面の工夫においても真剣に考える必要があるでしょう。

病院において必須となる感染対策

近年ではグローバル化の波もあり、国外から強力なウイルスが国内に持ち込まれたり、院内感染が実際に発生したりしたニュースを見聞きする機会も少なくありません。パンデミックと言われる世界的な感染症などは、すでに広まってから対処するのでは「時すでに遅し」になることが大半です。対症療法的な対応では感染スピードに追いつかないことも考えられるだけに、まず何よりも大切なのが感染経路を絶つことでしょう。

そういう意味では国外の感染症が持ち込まれないように国レベルでの対応が先決ですが、インフルエンザなど国内だけでも流行してしまう感染症の場合は、気づいた時にはすでに院内感染にまで発展するケースもあるでしょう。病院などの医療施設はケガや病気の方を治すことが目的であり、病院で違う病気をもらうなどということは本末転倒です。それゆえに院内に存在する菌への感染を防ぐための対策は必須だと言えるでしょう。

ただ、医療従事者が気をつけるだけでは、ヒューマンエラーがあった場合に感染の拡大を食い止めることができない可能性もあります。各々の意識を高めることはもちろん重要ですが、より大きな影響範囲を考えるうえでは建物設備において感染対策の工夫を施すことが必要となるでしょう。後から大掛かりな設備を導入するのには時間もお金もかかります。そのため、病院建築を検討する段階から具体的な感染対策に取り組むことが大切です。

さまざまな感染経路・方法への対策が急務

建築段階から感染対策を行うためには、まずはその経路を把握しておく必要があります。院内感染における経路は主に3つであり、「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」が挙げられます。国土交通省による「医療施設等における感染対策 ガイドライン」によるとそれぞれの感染経路については以下のように定義されています。

接触感染

皮膚、粘膜や創との直接的な接触、あるいは中間に介在する環境等を介する間接的な接触による感染経路を指す。

飛沫感染

病原体を含んだ大きな粒子(5ミクロンより大きい飛沫)が飛散し、他の人の鼻や口の粘膜あるいは結膜に接触することにより発生する。飛沫は咳・くしゃみ・会話等により生じ、また医療現場においては気管 内吸引や気管支鏡検査等の手技に伴い発生する。飛沫は空気中を 漂わず、空気中で短距離(1〜2 メートル)しか到達しない。

空気感染

病原体を含む小さな粒子(5ミクロン以下の飛沫核)が拡散され、これを吸い込むことによる感染経路を指す。飛沫核は空気中に浮遊するため、この除去には特殊な換気(陰圧室等)もしくはフィルターが必要になる。

※国土交通省による「医療施設等における感染対策 ガイドライン」より引用
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/08-06-04.pdf

接触、飛沫、空気のそれぞれの感染経路を踏まえたうえで考えられる対策は、「ゾーニング」「プランニング」「ディティール」になります。設計初期段階では清潔・不潔の管理エリアを明確に設定。全体的な各部門の配置を決めるゾーニングを行い、プランニングで手洗設備や空調など各部屋の必要性能の設定を行い、最後に詳細な図面作成の段階においてのディティールを考慮します。接触、飛沫、空気のそれぞれの感染における設計計画による感染対策は以下の通りです。

施設計画/感染経路 接触感染 飛沫感染 空気感染
ゾーニング エリア区分・不潔清潔における管理エリア設定
プランニング 手洗設備 配置・遮蔽(しゃへい) 陰圧・陽圧設定
換気回数
ディティール 清掃性・防汚性 気密性

建築・設備の工夫がつくる安心・安全の病院

多くの患者さんが往来する病院では、さまざまな菌が存在するだけに、慎重になりすぎることがないくらいの感染対策が必要です。トラブルが起きてからでは、対応が後手後手に回ってしまうことは目に見えているので、まずは感染経路を把握したうえで、設計段階において綿密な計画を立てるようにしましょう。建物の機能性が安心・安全に直結すると言っても過言ではないのです。

新病院の建築や既存医院の建て替えを検討中の方は、改めて建物の設備面について目を向けてみてください。現状の設備で何もトラブルがないとしても、新たな感染症が蔓延した際に対応できず、院内感染を招いてしまうことも考えられます。「石橋を叩いて渡る」というように病院の設計段階から慎重になりすぎるくらいの危機意識を持つことが、病院のその後何十年の安全性にも関わってくることでしょう。

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