病院などの医療施設に多いネガティブなイメージ
病院などの医療施設は、ケガや病気などの苦難を強いられている方が利用者の大半を占めており、その影響からか建物に関しても「暗くて淀んでいる印象」などどうしても後ろ向きのイメージがつきまといます。医師や看護師などスタッフの人柄の影響も少なからずあるはずですが、そうしたパーソナリティーに関わる情報は、実際に受診したり評判を聞いたりすることで得られるため、病院選定の時点ではわからないことも多いでしょう。
上記のような理由もあり、病院のイメージを決定づけるのは、患者さんの評判以外では建物のイメージも大きく関わってきます。特に古い病院のデザインは、いかにも不気味で人が“不健康”になりそうなタイプのものもあるでしょう。「病は気から」とはよく言いますが、窓が少なく昼夜の判断もできないような人工的で居心地の悪い空間だとしたら、治る病気も治らないということも往々にしてあるのかもしれません。病院選定のためのホームページ確認の段階で敬遠されることもあるでしょう。
そうした背景もあり、「医療分野の建物こそ建築デザインを重視すべき」という声が聞かれるようになってきました。明るく開放的でデザイン性に優れた建物のほうが治療やリハビリを受ける患者さんにとっても気分よく過ごせることは間違いありませんし、心身によい影響を与えるでしょう。医療施設に携わる方々の内面を豊かにするためにもデザイン性にこだわった建物にすることは非常に重要だと言えます。
デザイン性の高い設計でステレオタイプを払しょく
「病院は暗くて不気味な場所」という形成されてしまったステレオタイプを払拭するためには、多くの方の期待を“いい意味で裏切るデザイン性の高い設計”をすることが大切です。たとえば閉塞感が漂いがちな病院においては、待合いスペースに採光できる大きな窓を設置し、自然を感じられる空間にします。施設内にそうした明るい空間を設置するだけでも、「暗さを感じなくて気分がいい」「居心地のよさを感じる」などのポジティブな意見を聞けることでしょう。
また、病院の外観に関しては「白くて無機質な建物」という印象を持っている方が大半を占めるようですが、そうした固定概念も変えていくべき面かもしれません。美術館にもマンションにも見えるようなスタイリッシュな外観にしてみたり、女性に支持されるサロンのような華やかな塗装をしてみたりするだけでもイメージは大きく変わります。それだけで近隣から「ちょっと気になる存在」になり、ひいては多くの患者さんが来院するきっかけになるかもしれません。
ケガや病気に屈することなく健康を取り戻すためには、心理面が非常に重要になります。そのため、建物のデザインによってそうした効果が期待できるのであれば、設計段階から患者さんの心理面に好影響を与えるデザインを検討するといいでしょう。「心が元気になれば自然と体も元気になるはず」。そうした心意気で患者さんの心が満たされるデザインを追求することも、病院経営者に求められてくるのではないでしょうか。
患者さんが健康になれるワクワクする建物を
「病院はケガ人や病人が行くところ」というのは常識ではありますが、健康な地域住民でも集まることができるコミュニティの場として機能する病院もあります。2010年に新築移転した名古屋の総合病院「南生協病院」は、地域の方が自由に立ち寄れる“病院らしくない病院”とするために1階ロビーを解放し、院内にレストランを設置。老若男女問わずくつろげる空間を創出しています。病院で近隣の人と気軽にコミュニケーションを取る機会を作ることで、地域活性化にも貢献している事例です。
建築が直接的に人の命を救ったり、病気を治したりできるわけではありませんが、生活の楽しみや居心地のよさを与えることはできます。ケガや病気によって心理面にダメージを負った患者さんにとってはポジティブな気持ちになれ、人生に対してワクワクできる環境にいることが一番の薬になるのではないでしょうか。そんなこれまでの常識を打ち破った“病院らしかぬ病院”が今後増えていくことによって、医療界全体もさらによくなっていくことが期待されます。